四代目歌舞伎座が閉場して、ものづくりに携わる者として思うこと

INAXライブミュージアムの中にある「世界のタイル博物館」
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 INAXライブミュージアムの「ものづくり工房」では、国内外アーティストや建築家・デザイナーとの交流を通して斬新なものづくりを行う中で、古い建物に使用されていたタイルの復元も行っています。この復元作業は、形状や表情だけを復元するのではなく、当時の歴史的背景や技術を調査しながら、当時の設計者や職人たちの苦労や思いなど、ものに込められた“こころ”を知ることを重要視して作業を行っています。今回は、四代目歌舞伎座閉場のニュースに接し、思うことをお話しいたします。

四代目歌舞伎座が閉場して、ものづくりに携わる者として思うこと
「御禮本日千穐楽」の垂れ幕が掛かった歌舞伎座。4月28日、歌舞伎座はなみだ雨に濡れながらも、名残を惜しむ歌舞伎ファンで賑わった。

 2010年4月末、現在の4代目歌舞伎座が閉場し、新しく生まれ変わることが多くのメディアで報じられました。歌舞伎座という建築物が解体され新しくなることになぜこれほどまでの注目が集まり、多くの人が建物の姿を写真に納めようとしたのかについて、建築素材の「ものづくり」の立場から考えてみました。

 古い建築物の保存再生がしばしば話題となる中で、INAXライブミュージアムのものづくり工房では、保存再生の対象となった建築物のタイル復元に携わることがあります。4代目歌舞伎座の外装材にはタイルが使用されているわけではなく、残念ながら、ものづくり工房の出番はありません。しかし、歌舞伎座が生まれ変わるニュースを聞きながら、昔の建築物に使用されたタイルを復元する際に感じる共通の感情を覚えました。

 タイルの復元においては、見本として借用するタイルの表情や形状など現物に残された事実を観察し分析することから始めます。さらに製造当時の歴史的背景を調査し、当時の原料や製法を推測する訳ですが、調査によって浮かび上がる事実の中に、設計者やタイル職人の挑戦的な考え方や熱い思いを感じることがあります。具体的な事例は次回以降のシリーズの中で述べさせて頂きますが、これはタイルだけに限らずすべての建築素材にあてはまるものと考えます。

向かって左には鳳凰丸の座紋と「歌舞伎座」、右には「歌舞伎座閉場式」の垂れ幕。いよいよ最後の公演日を迎えた、4月30日の歌舞伎座。
 
「歌舞伎座閉場式」の日、歌舞伎座前のカウントダウン時計は「1」を表示。


 そして、この熱い思いはその建物に住まう人、働く人たち、あるいは訪れる人たちにも伝わるものだと思います。さらに、住んでいる人、あるいは働いていた人の思いや感情が 人々の記憶としてその建物と一緒に残り、この記憶に残る人々の人数が多い建物が有名建築と呼ばれるのでしょう。

 日本を代表する有名建築である歌舞伎座においては、さらに伝統と歴史を背負って演じ続けてきた歌舞伎俳優の魂が、その建物と一緒に人々の記憶や心に残っていることになります。これが、現歌舞伎座の閉場に際して多くの人が歌舞伎俳優や観劇という思い出を建築物に代表して写し撮った理由だと思います。

 われわれ、建築素材のものづくりに携わるものとして、自分たちが係わった建築物が、長い間多くの歴史を経ることによって人々の記憶に残ることほど幸せなことはないのかもしれません。


文:INAX文化推進部ミュージアム活動推進室 室長 後藤泰男


こころを映す、歌舞伎の舞台

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