究極の季節の装い

『助六由縁江戸桜』から。左は黒繻子地門松に羽子板注連飾り繍裲襠(くろじゅすじかどまつにはごいたしめかざりぬいうちかけ)、右は赤縮緬垂枝桜火炎太鼓幔幕繍裲襠(あかちりめんしだれざくらかえんだいこまんまくぬいうちかけ)

『京鹿子娘道成寺』玉子色綸子垂枝桜幔幕火焔太鼓柄振袖襦袢(たまごいろりんずしだれざくらまんまくかえんだいこがらふりそでじゅばん

 きらびやかな衣裳の多い歌舞伎衣裳の中でも、その豪勢さ、奇抜さで必ずといっていいほど話題に上るのが、『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』の花魁(おいらん)揚巻の衣裳です。

 門松、羽子板、御幣(ごへい)に巨大な伊勢海老まで付けた打掛、鯉の滝登りや七夕の笹飾りを立体的に付けた俎板帯(まないたおび ※)…。これは一年の五節句を形に表した衣裳です。門松や羽子板、海老は勿論お正月で「人日の節句(じんじつのせっく=1月7日)」、鯉の滝登りは「端午の節句」、笹飾りは「七夕」。現代の感覚で言えば“巨大クリスマスツリー柄のドレス、もしくは着ぐるみを着ている?!”という状態に近いようにおもえる大胆なスタイルです。
 では、揚巻が着るもう一着の打掛、しだれ桜の下、華麗に張りまわした幕から覗く、炎に縁取られたような雫(しずく)形の物は何でしょうか。

 これは雅楽で使われる大太鼓(だだいこ)、俗に火焔(かえん)太鼓と言われるものです。春の日に、宮中で管弦や、舞楽が華やかに催されている様子をイメージしてデザインされたものと考えられ、「上巳の節句(じょうしのせっく=3月3日の雛祭)」を表現していると言われています。ちなみに五節句の五番目は9月9日の重陽の節句(ちょうようのせっく)で、揚巻の朋輩の花魁白玉の着る菊の打掛で表されています。

 『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』でも、豪華絢爛な花魁道中で八ツ橋が火焔太鼓の縫取りの打掛を着て外八文字(そとはちもんじ)を踏み、田舎から出てきた佐野次郎左衛門(さのじろうざえもん)の度肝をぬきます。

 よく上演される『京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)』では、白拍子花子が次から次へと衣裳を替え、「山づくし」の段では鞨鼓(かっこ ※)を打ち鳴らしながら、黄色地に幔幕、火焔太鼓の振袖をひるがえして踊っていきます。

※俎板帯(まないたおび):花魁道中の時に締める正装用の豪華な帯のこと。
※鞨鼓(かっこ):雅楽で使われる打楽器で鼓の一種。

こころを映す、歌舞伎の舞台

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