宇宙の悠久を表すオブジェ

伊勢神宮『秋季神楽祭』の石舞台(舞楽の舞台)背後にセットされた1対の大太鼓。
撮影:新田義人(HP【舞!組曲】より。無断転載禁止)

 雅楽とは、中国、ベトナム、朝鮮などから外来し、日本古来の音楽とも結びついて発達した音楽です。その楽器だけの演奏を管弦(かんげん)といい、演奏に舞がともなえば舞楽(ぶがく)といいます。『源氏物語』の絵巻などで、光源氏と頭中将が『青海波(せいがいは)』という曲を舞っている場面(「紅葉賀」)は有名です。現在では主に寺社仏閣、宮中の式典などで催され、一般にはあまり接する機会がないかもしれませんが、新年や神前結婚式の際にバックミュージックに流れている『越天楽(えてんらく)』という曲は、耳にしたことがおありでしょう。その笙(しょう)・篳篥(ひちりき)・竜笛(りゅうてき)など雅楽特有の楽器の不思議な音色の背後に聞こえる、重低音の響きが火焔太鼓の音です。

 火焔太鼓は中央の太鼓の部分だけで直径2メートル、周囲の装飾をいれれば3.6メートルという世界でも最大級の太鼓です。左方と右方の二種の太鼓があり、左方は三つ巴模様の太鼓の周囲に雲と双竜、それを囲むように宝珠形の真っ赤な火焔の装飾を施し、先端には金色の日輪を表す飾りが付いています。この飾りまで入れればゆうに5メートルは越すでしょう。右方は二つ巴模様の太鼓に雲と鳳凰、やはり火焔形の装飾の先端に銀色の月輪の飾りが付きます。この二つは必ず対をなし、舞台の右と左に置かれます。というのも、左方の三つ巴、日輪の太鼓は太陽=陽を、右方の二つ巴、月輪の太鼓は月=陰の世界をあらわし、陰陽二つ揃って宇宙の摂理を表していると言われているからです。

こころを映す、歌舞伎の舞台

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