歌舞伎でおしゃべり 幕間すずめ



vol.10 歌舞伎って生き物?【最終回】

 400年の歴史をもつ歌舞伎は、有名俳優から裏方まで、多くの人々の汗と知恵の結晶。演技術はもちろん、大道具、小道具、衣裳にいたるまで長い年月をかけて工夫されてきました。あたかも新陳代謝を繰り返す「生き物」のように。

 たとえば『助六』。黒の紋付きに江戸紫の鉢巻き、緋縮緬の下帯という粋なスタイルでおなじみですが、初期の二代目團十郎の役者絵には、裾に大きな海老の模様が。劇場の照明や染料の変化もあり、衣裳は江戸時代から、変わっているものも多いのです。

 一方、同じく歌舞伎十八番の『毛抜』。主人公粂寺弾正の衣裳は、現在市川團十郎家が演じる時は、亀甲縞の着付けに寿の海老模様の袴が定番。これは十一代目團十郎が、江戸期の七代目團十郎の役者絵を参考にして以来です。

 七代目の五男の九代目は、歌舞伎に近代感覚を取り入れ、色々な工夫も試みています。たとえば『京鹿子娘道成寺』に登場する所化は、昔は二人だったのを、大勢出す演出に変えました。花傘を持った所化の総踊りも、この人のアイデア。

 その娘道成寺を初演したのが初代中村富十郎。さまざまな名人によって踊られ、歴史を持つ舞踊ですが、当時富十郎の踊りを見たある人が「この振りはちょっと平凡ではないか」と尋ねたところ、彼は「凝った振りだと世に広まらず後世に残らない」と言ったとやら。もちろん振り付けは当時そのままではありませんが、その先見の明が、今に残る人気演目の秘密なのかもしれません。

 時代とともに変わるものと変わらないもの。旧きに学び新たに息吹を取りもどすもの。歌舞伎は今まさにこの瞬間を「生きて」いるのです。


■辻 和子(イラスト・文)
恋するKABUKI フリーイラストレーターとして出版・広告を中心に活動中。
 エキゾチックな味わいが持ち味だが、子供の頃より観続けている歌舞伎の知識を生かした和風の作品も得意とする。
 現在東京新聞土曜夕刊にて、歌舞伎のイラストつきガイド「幕の内外」を連載中。
 著書にファッションチェックつき歌舞伎ガイド「恋するKABUKI」(実業之日本社刊)がある。