歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



     

江戸の長屋暮らしを伝える「権三と助十」

  江戸の長屋暮らし  
 
 「天一坊」のように、大岡越前守による見せ場があるわけではありませんが、「権三と助十」も、講釈の大岡政談である「小間物屋彦兵衛」を基にして作られたおなじみの演目です。最近では、2006年5月「團菊祭五月大歌舞伎」で菊五郎の権三、三津五郎の助十の配役で上演しました。

  初演は1926年(大正15年)、新歌舞伎の名作を数多く残した岡本綺堂の作品で、「天一坊」とは異なり、気軽に笑って観られる喜劇です。喧嘩っ早くて気が強いかと思うと、小心者でもある「いかにも」の江戸の裏長屋の人々の暮らしが、楽しくいきいきと描かれています。

 特に「井戸替え」のシーンからは、当時の庶民たちの、隣近所との親密さをうかがい知ることができます。年に一度、住民たちが総出で、ワイワイ言いながら、井戸の水をすべて汲み出し、底にたまったものを取り除く。江戸の町人たちにとって隣近所の人たちは、毎日の暮らしの中でも親密で、気心の知れた間柄でした。
  また、大家は長屋の住人にとっては親も同然。人別帳調査、店子の身元調査と身元保証人の確定、諸願いや家屋敷売買の書類への連印、喧嘩・口論の仲裁、店子が訴訟などで町奉行所へ出頭する際の付き添いなど、町民の「あらゆる不安」を取り除く重責を担っていました。