歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

「紫の鉢巻」と言えば何と言っても『助六』!

夕霧の恋人・零落中の伊左衛門の紙衣も紫です。
 「病鉢巻」を巻いた男性で一番美しいのが安倍保名なら、女性では『廓文章(くるわぶんしょう)』の遊女、夕霧でしょうか。華やかな遊女の衣裳をまとって、憂いを帯びた面差しで登場する夕霧も、保名と同じように気の病、恋の病を患っています。病鉢巻の紫は「白塗り」に映え、美しい絵になります。『廓文章』は上方和事の代表作で、舞台は大坂※の新町。大坂の新町は江戸の吉原、京都の島原と並んで、江戸時代の三大遊廓のひとつと呼ばれていました。遊廓と呼べるのは幕府の許可をもらっているところだけで、夕霧は遊廓遊女の最高位の太夫(たゆう)ですから、衣装も大変豪華なわけです。

 そして、江戸紫の鉢巻が映える粋な姿の筆頭は何といっても助六です。助六の紫の鉢巻は病鉢巻ではありません。ご存知の方も多いと思いますが、顔の右に結び目がある助六の鉢巻は、みなぎるパワーの証です。病鉢巻とは逆に鉢巻を巻くという奇抜ないでたちは、まさに放蕩無頼、異端の傾き者(カブキモノ)の粋を表現しているとも言われています。

 黒羽二重の小袖、紅絹(もみ)の裏地、江戸紫縮緬の右結びの鉢巻、黄色い足袋。この鮮やかな色彩のきりっとした衣装の背中には尺八、そして手に蛇の目傘。「助六が上演される」と聞いただけでワクワクし、出端(では)についてだけでもその魅力を語り出したら止まらない歌舞伎ファンは多いことでしょう。
※現在の大阪。
『助六』の本名題
 現在よく上演される『助六』の本名題はひとつではありません。
 市川團十郎家の芸では本名題『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』を使用しますが、他家の俳優が『助六』を演じるときはこの本名題では上演しません。例えば尾上菊五郎家の場合は『助六曲輪菊(すけろくくるわのももよぐさ)』、1998年十五代目片岡仁左衛門襲名披露公演では『助六曲輪初花桜』という本名題で上演しています。