歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


「葛籠抜け」のしかけに、クローズアップ

「葛籠抜け」とは、大盗賊の石川五右衛門が活躍する『増補双級巴(ぞうほふたつどもえ)』など、 五右衛門ものの作品で用いられる演出で、宙に吊るされた葛籠から、一瞬にして人物が登場するというスペクタクルに富んだもの。その「葛籠抜け」で用いられる葛籠について、引き続き瀬田さんにおうかがいしました。

 「小道具のしかけ全体について言えることですが、この葛籠もそんなに複雑な細工をしているわけではないんですよ。葛籠が中央から割れて、それが後ろに回り込む。それだけです。単純だけど、お客さまがはっとされるのは、箱の大きさに秘密があって<小さい箱から飛び出てくる>ところがミソ。中に入っている役者さんが、ラクラク入っていられるためには、だいたいこの2倍の大きさが必要かな。でも、大きいところから出てくるのでは、ドラマチックにならないんです。

 この葛籠抜けで一番神経を使うのは、なんといっても安全性です。宙に吊るして使うので、もしも金具が折れたりしたら一大事。公演前には、専門の業者でレントゲンを撮って安全性を確認し、公演中も毎日丁寧に点検をしています」


 湯川社長も「しかけは、単純明快な方がいい」ときっぱり。小道具のしかけにも、歌舞伎ならではの美学があることに改めて気づかされました。
夕涼み
夕涼み
(上)葛籠の大きさは、俳優と小道具の担当者が話し合いながら決めていく。制作には約1カ月かかるそうだ。
(下)葛籠が開いたところ。本番では、中央部分に俳優が入り、葛籠を背負った姿となる。