歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


小道具という仕事の心意気

  最後に瀬田さんに、小道具という仕事に向かう上で大事にしていることをうかがいました。

 「さきほども言ったように、小道具の仕事は時間との戦いです。そうした状況のなかで、たくさんの判断をしなくてはならない。<これでいいや>と妥協した仕事はやはり駄目ですね。逆に、ぎりぎりまで粘って<これでよかったんだろうか>と不安を抱いている時は、いい結果につながるような気がします。こちらが考え抜いて揃えた道具と役者さんの望むものが一発で一致したとき、これはなんともいえない充実感があります」

 そう話す瀬田さんの満ち足りた表情がとても印象的でした。

 歌舞伎の小道具が、「葛籠抜け」というしかけを生み出したのは、観客をあっと驚かせたいという気持ちがあったから。それと同じように、エコキュートという給湯システムの新商品を生み出すにあたっては、大きな思い入れがありました。

 家庭で消費されるエネルギーのうち、給湯が約1/3(家庭用エネルギー統計年報2006年度<関東>より)を占めていることをご存じでしょうか。照明・家電製品などはトップランナー方式(新製品を開発する際、燃費や省エネ性能がトップの製品に追いつき追い越していこうという考え方)の導入などによって、各メーカーが切磋琢磨して省エネ機能がどんどん充実していました。一方、給湯システムに関してはトップランナー方式が導入されておらず、はからずも技術革新が大きく立ち遅れていました。ですから給湯の省エネルギーは、これからの環境対策の大きなポイント。そこで、東京電力などが一念発起し、約10年前に大幅なCO2排出量の削減が可能な電気給湯機「エコキュート」をつくりあげたのです。「エコキュート」とは、ヒートポンプの技術を活用し空気の熱を利用してお湯を沸かす高効率な給湯機。すでに東京電力のサービス区域内では、約33万台(※)が普及しています。これにより、約21.5万トン(※)のCO2排出量を削減したことになり、これは、東京23区の約2倍の面積相当の森林を保全した効果(※)に匹敵します。

 私たちが暮らしていくには、どうしても環境と向き合わなくてはなりません。地球環境のため、私たちの未来のために、毎日の生活で使うエネルギーを、大切に使える工夫を上手に取り入れたいですね。

瀬田さんの手
瀬田さんの手。若い後継者についてうかがうと「教えることは、たくさんある。でも、まずは仕事の数をこなすことが大事だね」とあたたかい眼差しで語ってくれた。
文/田村民子、写真/TONY、イラスト/松原シホ、構成/黒田幸(編集部)