歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


舞台美術を一手に担う、大道具の仕事

 歌舞伎は、観客をあっと驚かせるのが大好きな芸能です。廻り舞台やセリは、数あるしかけのなかでも、最もダイナミックなもの。これらの舞台機構を効果的に利用しながら、舞台上に具体的な景色を作りあげ、演出を盛り立てるのが大道具の仕事です。

  数ある劇場のなかで唯一、毎月歌舞伎を上演している歌舞伎座。その大道具を担当しているのが今回ご紹介する歌舞伎座舞台株式会社です。11月公演のまっただ中、取締役統括部長の足立安男さんをおたずねしました。まずは舞台裏に向かい、『廓文章』から『寺子屋』への舞台転換を拝見。上手、下手、舞台奥、そして天井から魔法のように道具が運び出され、大勢のスタッフが、あうんの呼吸で動いています。「足立さん、大道具の現場って、すごい活気ですね!」

  「舞台転換は私も入社してすぐに経験しましたが、体力がいりますよ。腰を痛めないように、自転車のチューブを腰にまいてやっていました。大道具の仕事は、舞台のセットを作ること、そして舞台転換を行うことが主軸ですが、幕を扱ったり、雪を降らせたりもしますし、ツケ打ち、幕引きなども担当しているんですよ。

  演目が決まったら、まずは役者さんと打ち合わせをします。演目ごとに大枠の決まりはあるのですが、役者さんにもいろいろお考えがあって、細かい注文が出されるんです。その美意識を理解して、実現できるように調整するのが私の役割です。

  最終イメージが固まったら設計図を作成し、屋体(※1)や背景画の制作にとりかかります。背景画は、気に留める方は少ないかもしれませんが、舞台の雰囲気や品格を大きく左右しますから、とても重要なんです。歌舞伎の舞台は、三次元だけど絵のように二次元的に見えるでしょう。大道具は、こうした独特の美意識に基づいて制作されているんですよ」


  歌舞伎座の背景画は格調高く、多くの劇場がお手本にしているそうです。あんなに大きな背景画を、どんな手順で描いているのか、その現場を見せていただくことにしました。

屋体(※1):歌舞伎の大道具のなかで、家屋をさす専門用語。
足立さん
建築設計事務所を辞し、この世界に飛び込まれて30年という足立安男さん。「映像の世界ではCGを使えばなんでもできます。それに比べると歌舞伎のしかけは単純ですが、生の舞台は独特の迫力があります」
道具帳
道具帳と呼ばれる、舞台美術のカタログのようなもの。これを元に俳優さんと打ち合わせをするそうだ。全て絵筆で描かれているという道具帳は、独特のあたたかみと凛とした気品がある。
幕引きさん
定式幕の開け閉めを担当する、幕引きの柳沢さん。
「たっつけ」と呼ばれる衣裳は、とても動きやすそう。幕引きだけでなく、舞台転換なども担当する。