こだわりのディテールが豊かな空間をつくる

 個人として日本画を描き、お仕事として歌舞伎座の背景画を描かれている後藤さん。どちらも絵ですが、性格は随分異なります。後藤さんにとって、歌舞伎座という劇場空間はどのような存在なのでしょうか。

  「歌舞伎座は、横幅がたっぷりある贅沢な舞台空間です。中央で緊張感のある演技をしていても、舞台の横幅がある分、余白のような空間ができるので、いい余韻が出るんですよ。こうした空間だから、見得をした時、ひとつの絵のように決まるんだと思います。背景画も、劇場空間のボリューム感や演技の要所要所を頭に入れて描いています」

  俳優さんの演技と同じく、背景画も一瞬の輝きにかけている。間接的ではあるけれど、後藤さんもひとりの舞台人なのだと感じました。

  どんなに俳優がいい演技をしても、背景画や衣裳、小道具などのどれかひとつが調和を欠くと、感動は生み出されません。ひとつひとつのディテールにどれだけこだわれるかで、芸の質は高くもなり、低くもなるのです。毎日生活する居住空間においても、エクステリア、インテリアだけでなく、家具、家電などのデザインが空間の雰囲気を大きく左右します。人目につくアイテムは、好みのデザインをチョイスしたいものです。

 最近は、通常家の裏や見えないところに設置されがちな住宅設備のデザインも変化しています。そのひとつが、空気の熱でお湯を沸かす環境に優しい電気給湯機「エコキュート」。スタイリッシュなデザインで、玄関や庭先など人目につくところに置きたくなるようなものを、という新しい発想のもとに生まれた「design eco cute」は、都市型住宅の景観にもマッチするおしゃれなデザインで、2006年度Good Design賞も受賞。愛着をもって接する車のような存在へと変化しました。モダンな住宅の外観をそこねない洗練されたデザインは、隠すどころか他人に自慢したくなるほど。つい磨きたくなる、そんな声も耳にします。

  この「design eco cute」は、本体の奥行きがわずか450mmの薄型。都市部の設置スペースに余裕がない場所にもすっきりと設置できます。また、台所リモコンや浴室リモコンのパネルも使いやすくおしゃれなデザインです。さらにエコキュートは、大幅な省エネ効果が期待でき、家庭から排出されるCO2排出量も大幅に削減(※)することができます。自分らしくおしゃれに地球環境保全に貢献できる。それが「design eco cute」なのです。

  実は、「design eco cute」は、<「でんきのチカラ」で明日をデザインしたい>という展望のもとにスタートした「Switch! the design project」から生まれた商品。このプロジェクトは、単にデザイン性にこだわるというだけではありません。世の中の仕組みをトータルにデザインし、私たちの生活全体を創造的に高めて新しい未来をつくりだしたいという、大きな志を抱いているのです。無限の可能性を秘めている「でんきのチカラ」。私たちの未来の暮らしがより豊かで、楽しいものになってほしいですね。


後藤さん
この世界に入るまでは、和菓子作りや映画の看板絵なども経験されたという後藤芳世さん。後進の指導のため、風景や菊などをスケッチする会も催しているとか。様式化された歌舞伎の背景画も、やはり基本は自然にある。
作業室 絵筆
後藤さんの手
背景画の下絵を描く後藤さんの手。ご両親ともに絵描きさんという、芸術肌の家に生まれ育った。松羽目についてうかがっている時、目黒にある喜多六平多記念能楽堂の鏡板の松の話題になった。「前田青邨が描いたあの松はいいね。ああいうのを描いてみたい」

文/田村民子、写真/TONY、イラスト/松原シホ、構成/黒田幸(編集部)