歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎の衣裳制作は、スピードが命

ユーモアのなかに、東京の紳士の風情が漂う小堺徹一さん。「今という時代は、和服離れが深刻で同業者も辞めるところが多いんです。でも私たちは歌舞伎があるからこうして仕事をしていられます」

歌舞伎を歌舞伎たらしめている要素のひとつに、絢爛たる衣裳があります。舞台上で光を浴びて輝く衣裳は、まさに夢の世界そのもの。一体どんなところで生まれているのでしょう。

 今回訪れたのは、戦中から歌舞伎の衣裳を創り続けている衣裳制作の老舗・小堺です。昭和の面影が残る東京・荒川区の工房で、代表の小堺徹一さんからお話をうかがいました。

 「うちは普通の染物店だったのですが、歌舞伎の衣裳を手がけるようになってから、無地染め、型染め、絵付け、刺繍、それに仕立て、洗い張りまで、着物にまつわることならなんでもやるようになりました。というのも、今と違って昔は演目が決まるのがとても遅かったんですよ。初日までの日数はわずか。無地染めや刺繍などを外注に出していたら、とてもじゃないけど間に合わない。現に、初日に間に合わないこともあって、そんなときは俳優さんに『初日は、ちょっと泳いでください』※と言って、違う衣裳を着ていただいたりしていました。

 歌舞伎の思い出は尽きません。戦後、歌舞伎座で『源氏物語』をやったときも関わらせていただきましたが、衣裳は新調するものばかり。3日3晩寝ないでやって、終わった後は、四つんばいになって寝床へ入りました」


泳ぐ(※)歌舞伎の衣裳の隠語。正式の衣裳ではなく、仮のもので臨時に対応すること。

型染めは、長い板の上に薄く糊を敷いた上に布をのせ、型紙で染めていく。

布地を染める工房。布だけでなく、刺繍のための絹糸もここで染め上げる。

「御所解模様」と呼ばれる文様。歌舞伎では、武家の女性の衣裳などに用いられる。4枚(専門的には4辺と呼ぶ)の型紙で版画のように染めていく。

歌舞伎の逸品

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