歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



既成の釜糸では、色のバリエーションに限界があるため、自社で理想の色に染めている。

針と糸があやなす究極の技、刺繍

 歌舞伎の衣裳はあまたありますが、最も手間と技術を要するものはどんな衣裳でしょうか。ぱっと思い浮かぶのは、『助六』の揚巻の衣裳ですが…。

 「実は、『菅原伝授手習鑑 寺子屋』の松王丸の衣裳なんです。雪持ちの松に鷹のある図案なのですが、全て刺繍で表しているんです。刺繍の縫い方が独特で、これができる職人は少ないんですよ。

 うちは作るのが早いですから、普通だと1カ月半くらいかかる衣裳でも3〜4日間でやったりします。でも、これほどの衣裳になるとそうもいきません。時間のあるときに少しずつ制作していきますが、1年半くらいはかかります」


 そこで、実際に手がけられた刺繍のベテラン・上野美千代さんにお話をうかがいました。

 「刺繍は、釜糸(かまいと)というまだ撚(よ)りをかけていない極細の絹糸を自分の手で撚るところからはじめるんですよ。糸は、強く撚ると太く短くなりますよね。松王丸の衣裳では、強い撚りをかけてボリュームを出しふわっとした雪を表現したり、逆にゆるめに撚った糸で繊細な線を表したり、いろんな撚り方が必要になるんです。とても手間がかかりますが、自分の手がけた衣裳が舞台で輝いているのを見ると、本当にうれしいですね」

刺繍チームのお隣では、絵付けの作業が行われていた。

上野美千代さん。「自分の作った衣裳が歌舞伎に出ると友人たちと見に行きます。あるとき舞台を見ていて、帯の裏側がちらっと見えるような動きがあったんです。それからは、制作するときに裏側にも気を配るようになりました」

あうんの呼吸で、縫い上げていく。

歌舞伎の逸品

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