歌舞伎いろは

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玄人の世界の三味線

堀込敏雄さん。若い頃は三味線の材料を扱う店で修業を積んだそうだ。「素材を見極める目を養えたことは自信になりましたね。棹は弾く人によって、指の長さや太さが違いますから、それに合わせて太さを調整します。バランスのいい三味線は、ひざにのせたときに重さを感じません」

 チン、チリ、テン、チン…。
 歌舞伎の折々のシーンで、ときに勇ましく、ときにしっとりと、情感豊かな音を奏でる三味線。歌舞伎の音楽というと長唄、義太夫(竹本)、清元、常磐津がありますが、いずれも三味線が重要な役割を担っています。

 今回訪れたのは、歌舞伎の舞台で活躍する三味線方など、プロの演奏家だけを顧客にもつという「根ぎし 菊岡三絃店」。江戸っ子らしいさっぱりとした口調の三代目、堀込敏雄さんにお話をうかがいました。

 「うちでは、長唄用の細棹と清元、常磐津用の中棹の三味線を作っています。棹だけを作る専門の職人1人と息子の3人でやっていますが、この仕事は集中力が大事。普段はみんなひと言も口をきかず、やっています。

 歌舞伎の舞台に出られる方の三味線は、やはり神経を使いますね。三味線は暖房にさらされると木のクセが出て、狂いが生じてしまうんですよ。ですから、木の目がまっすぐ通っているものを厳選して使うようにしています。弾く頻度も並じゃないですから、弦を押さえるところがだんだんへこんでくるんです。これを勘減り(かんべり)と言いますが、そのままだと濁った音になってしまう。それを削って直すんですが、これを繰り返すと棹が細くなり使えなくなります。個人差はありますがプロの演奏家の方だと、一生でだいたい5丁くらいの三味線を持たれるんじゃないでしょうかね」

店舗は構えていないため屋外に看板はないが、玄関を入ってすぐの棚には、屋号である「菊岡」の文字が彫られた粋な看板があった。

祖父にあたる菊岡栄吉さんの写真。栄吉さんは多くの人から一目置かれる職人だったそうだ。

道具を温めるため、仕事場では火鉢が現役で使われていた。奥に見えるのは、張り替え中の皮。

歌舞伎の逸品

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