歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎の中のつまみかんざし

青木政雄さん。19歳で弟子入りし、この道45年。10年間は師匠について勉強するつもりだったが、7年目で師匠が急逝。「これから肝心なところを習おうかという時期だったので大変不安でした。でも周囲の方に支えられてなんとか続けることができました」

 「つまみかんざし」というと、七五三や舞妓さんの髪飾りを思い浮かべる方も多いでしょう。小花がかわいらしく連なったこの飾りは、若さの象徴。歌舞伎の女方もこのかんざしを挿しますが、やはり若い娘の役が用います。

 今回は、そのつまみかんざしを作っておられる「舞花」の青木政雄さんをおたずねしました。歌舞伎にはお姫様が挿す銀色の「姫の前ざし」という大きなかんざしがありますが、これを作っているのも青木さんです。金属に見えますが、実は紙製。そしてこれを作ることができる職人は青木さんただ一人です。

 「歌舞伎で用いるかんざしは、大きく分けて金属で作られた固いもの(※)と、ここで作るような布製のやわらかいもの(つまみかんざし)や紙製のものがあります。つまみかんざしが使われる演目というと、『藤娘』がわかりやすいでしょうかね。しだれた藤の花のかんざしを思い出していただけると思います。それから『三人吉三』のお嬢吉三が挿す、くす玉や櫛もつまみの技術が用いられています。

 姫の前ざしは、よく出るものですから時間の空いたときにコツコツと準備をしています。俳優さんによって大きさが微妙に違うので、注文が来たときに指定の大きさに作っているんですよ。俳優さんは、形や色、配色など細かな点までこだわりをもっておられるので、特に神経をつかいますね」


 金属で作られた固いかんざし(※):以前、この連載でご紹介しています。併せてごらんください。 「かんざし編」→

くす玉の芯になる紙製の玉。以前は、外部の職人さんに作ってもらっていたが、もう作る人がいないため青木さんご自身が手作りしている。

くす玉には、約300片の花びらが必要だとか。気の遠くなるような作業だ。

「姫の前ざし」は小花で構成されているが、実は小さな蝶もついている。その蝶も型で抜いて、ひとつひとつ手作りしている。

歌舞伎の逸品

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