歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



曲線デザインで統一された客席を照らすのは、柔らかな光を放つ間接照明と窪みに設置したダウンライト。

階段の美しいカーブも装飾のひとつ。ロビーの天井は、白の石膏の孔のあいたボードを吊って、照明を露出させない、というこだわりの設計。

学術的にも価値の高い建築

2階席の手摺り。優美なカーブを描く真鍮製の手摺りもまた、建築デザインを学ぶ学生達の注目スポットだ。

客席天井に張られたアコヤ貝は、ダウンライトの窪みに近づくにつれ密度が高くなっていく。

この建物の中でたったひとつの出窓。建築研究家たちはライト設計の帝国ホテル本館をこの出窓から眺めた。

バルコニーのようにへこんだオリエント風の窓。黒の紋様の手摺りのある凝った造りだ。右上にあるのが出窓。

1階ロビーにある受付カウンター。大理石でここまでのカーブを描く仕上げは並大抵ではない。

客席扉の取っ手は蝶々の形に。この蝶々のモチーフは劇場内カフェの椅子にも使われている。

 日生劇場は、日本生命保険相互会社が創業70周年を迎えたのを記念して建設した日本生命日比谷ビル内にあります。1963年(昭和38年)9月16日に竣工し、10月20日ベルリンドイツオペラ「フィデリオ」にて開場しました。

 建物の規模は、地下5階地上8階建て。8階の一部に国際会議場及びその附属室を配置した他は、おおむね建物は平面的にも立体的にも二分されていて、 一方が会社の事務用部分、他方が劇場部分になっています。

 この建物は著名な建築家である村野藤吾氏による設計で、昭和を代表する名建築物と言われています。外壁には淡紅色の万成石、劇場内は白大理石の床というように、天然石をふんだんに使ったぜいたくな造り。劇場客席に昇る大階段、螺旋階段には赤い絨毯が敷かれ豪華な雰囲気を醸し出し、螺旋階段とその手摺りには細めのステンレススチールが使われ、カーブが際立つ繊細な美しさを見せています。

 劇場の中は壁も天井も全て曲面で構成され、壁面はガラスタイルのモザイクで、ところどころに散りばめた金やコバルトが鮮やか。硬質の石膏をコバルトブルーに着色した天井には二万枚と言われるアコヤ貝が貼ってあり、他の劇場には無い独特の幻想的な雰囲気を生み出しています。

1階客席は、傾斜があまりない前方は前席の人の頭に視線が遮られないように交互に並べるなど、「それぞれの席から舞台への目線」が丁寧に検証されています。また、舞台から2階席の最後列までの距離が31mなので2階席も臨場感たっぷり。個性的な馬蹄形をした中2階の「GC(グランドサークル)」は座った時の目線の高さがほどよく、全席両肘付きでゆったり観劇できるのでとても人気が高いそうです。

 撮影・取材した日はオペラ公演の合間の稽古予備日。撮影した客席の写真には演出家が使う机が映っています。この日、団体の見学者と一緒になりましたが、学術的にも見どころがいっぱいあるこの建物は、休演日には多くの見学の申し込みがあるそうです。

平成 劇場獨案内

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