昼の部
一、春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)
工藤祐経に父を討たれた曽我五郎(橋之助)、曽我十郎(染五郎)の兄弟は、静御前(福助)と共に、春の七種のご祝儀にこと寄せて工藤の館に乗り込みます。兄弟は仇を討とうと勇みますが、静御前は二人を宥めながら、七草粥の準備をします。
初春の風物を取り入れた御祝儀舞踊をお楽しみください。
二、梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)
梶原平三景時(幸四郎)は、大庭三郎景親(左團次)、俣野五郎景久(歌昇)兄弟や大名(由次郎、種太郎、宗之助)が居並ぶ鶴ヶ岡八幡宮の社頭に参詣します。ここへ青貝師の六郎太夫(東蔵)と娘の梢(魁春)が大庭に刀を売りに現れ、大庭は梶原に刀の目利きを頼みます。
梶原は稀に見る名刀と言いますが、俣野は刀の斬れ味を検分すべきと言い、死罪の罪人を二人重ねた「二つ胴」の試し斬りが行われることになります。しかし罪人は一人しかおらず、六郎太夫は自らその役をかって出ます。罪人の剣菱呑助(秀調)が引き出され、梶原による試し斬りが行われますが、斬られたのは呑助一人。刀を売ることが出来ず、自害しようとする六郎太夫を止めた梶原は、意外な事実を語りはじめます…。
名刀の奇瑞を描いた、義太夫狂言の名作をお楽しみください。
三、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
武蔵坊弁慶(團十郎)の進言によって、源義経(勘三郎)は強力に、家臣ら(友右衛門、高麗蔵、松江、桂三)は山伏に姿を変えて都を落ち、奥州へと向かっています。富樫左衛門(梅玉)が関守を務める加賀国の安宅関へさしかかった一行は、東大寺再興の勧進僧と名乗りますが通行は許されません。富樫は弁慶に勧進帳を読むように命じます。すると弁慶はあるはずのない勧進帳を取り出して、朗々と読み上げていきます。尚も続く富樫の執拗な尋問にもよどみなく答えた弁慶は、関の通行を許されます。しかし番卒が強力を怪しみ、富樫は太刀持音若(玉太郎)から刀をとって強力を呼び止め、一行に詰め寄ります。
歌舞伎十八番の、屈指の名作をご鑑賞ください。
四、秀山十種の内 松浦の太鼓 (まつうらのたいこ)
師走のある日、俳人の其角(歌六)は両国橋で煤竹売りに身をやつした門下の俳人、赤穂浪士の大高源吾(梅玉)に出会います。其角が「年の瀬や水の流れと人の身は」と発句を詠みかけると、源吾は「あした待たるるその宝船」と付句して去ります。翌日、同じく其角の門人、松浦鎮信(吉右衛門)は、其角を招き、近習達(由次郎、桂三、松江、種太郎、吉之助)も加えての句会を催していますが、軍学者山鹿素行の同門の大石内蔵助が吉良上野介を討たないと、業を煮やす日々で、腰元奉公する源吾の妹お縫(芝雀)に暇を与えると言います。そこで其角が源吾との句のやりとりを話す折しも、隣の吉良邸から山鹿流の陣太鼓が鳴り響きます…。
初代吉右衛門が当たり役とした忠臣蔵外伝物の人気作です。
夜の部
一、春の寿(はるのことぶき)
格調高い王朝風の舞台で、女帝(雀右衛門)、春の君(梅玉)、花の姫(福助)が雅な舞で、歌舞伎座の初春を寿ぎます。新しい年のはじまりにふさわしい、荘重で華やかな長唄舞踊の新作をお楽しみください。
二、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
車引
吉田神社の社頭で斎世親王の舎人桜丸(芝翫)と菅丞相の舎人梅王丸(吉右衛門)が不運を嘆き合うところへ、金棒引藤内(錦吾)が通りかかり藤原時平(富十郎)の社参を告げます。二人は、互いの主人を追い落とした時平に恨みをはらそうと、時平の舎人杉王丸(錦之助)を振り切り、牛車に襲いかかります。しかし時平の舎人松王丸(幸四郎)がそれを止めます。
実は、梅王丸、松王丸、桜丸は三つ子の兄弟ですが、敵味方に別れて奉公をしているのでした。やがて牛車の中から藤原時平が現れると、桜丸、梅王丸はその威勢に身をすくめます。松王丸は二人を斬ろうとしますが、時平は松王丸の忠義に免じてそれを止め、三兄弟は遺恨を残しながらもその場を後にするのでした。様式美に溢れ、荒事の演技が堪能できる一幕をお楽しみください。
三、京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)
桜が盛りの道成寺に、花子(勘三郎)と名乗る白拍子がやって来て、新しく建立された撞鐘を拝みたいと申し出ます。すると所化たち(高麗蔵、松江、種太郎、新悟、種之助、宗之助)は、女人禁制であるが、舞を舞うのであれば入山を許すというので、花子は金の烏帽子を被り舞い始めます。次々と華やかな踊りを披露するうちに、花子は鐘の中へと飛び込みます。実は花子は先年、恋の恨みから蛇体となって道成寺の撞鐘を焼いた、清姫の亡霊が姿を変えたものでした。
やがて花子が鐘の中から蛇体となって現れますが、ここへ大館左馬五郎(團十郎)が登場し、清姫の亡霊を退散させるのでした。
華やかな女方舞踊の大曲にご期待ください。
四、与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)
伊豆屋の若旦那与三郎(染五郎)が鳶頭金五郎(錦之助)と木更津の浜見物をしていると、顔役赤間源左衛門の妾で、元は深川芸者のお富(福助)と出会い、互いに一目惚れします(「木更津海岸見染」)。
逢瀬を重ねる二人の仲を知った赤間により、瀕死の重傷を負った与三郎。お富は身投げをしますが、和泉屋多左衛門(歌六)に救われます。それから三年。今は多左衛門の妾となったお富が番頭藤八(錦吾)と話をしていると、小悪党の蝙蝠安(彌十郎)が相棒を連れてやって来ます。お富は金をやってその場を収めようとしますが、戸口から体中に傷跡のある男が現れます…(「源氏店」)。
おなじみの名せりふが織り込まれた世話物の名作をお楽しみください。