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玉三郎・鼓童共演『アマテラス』
昨年5月・6月に東京・世田谷パブリックシアター、京都・南座で上演し、大反響を呼びました、坂東玉三郎と太鼓芸能集団「鼓童」共演による舞台『アマテラス』が、8月4日~6日歌舞伎座で上演されます。
スサノオの暴挙に怒り、天の岩戸に身を隠したアマテラスが、八百万の神々による歓喜の祝祭によって岩屋戸から姿を現し、この世に光が蘇ったという日本神話をテーマに、舞踊と音空間が織りなす幻想的な世界が歌舞伎座の舞台空間に繰りひろげられます。
公演を前に、坂東玉三郎、鼓童のメンバーが揃って記者会見が行われました。
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鼓童・青木孝夫(代表)―――
昨年の春に鼓童結成25周年を記念して世田谷パブリックシアター、京都・南座で約2ヶ月の公演をさせていただいた『アマテラス』が、この度、歌舞伎座で再現させていただけます事、鼓童にとって大変光栄な事と思っております。
鼓童は26年間で、海外公演を含めて約3000回ほどの公演を、数々の素晴らしい劇場で行なってきておりますが、今回の歌舞伎座という舞台には、さらに特別な思いがあります。
歌舞伎座には、歴代の鍛え抜かれ、磨き抜かれた一流の役者たちの演技、演奏家の方々の素晴らしい演奏、そのような至芸を持つ芸能者の方々から発するエネルギーが宿っている、そんな気配を感じます。
そのような素晴らしい舞台に出ることができる喜びを感じ、また、舞台からのエネルギー、7年間ご指導いただいている玉三郎さんのエネルギー、そして鼓童がもっている全ての力を結集して、最高の舞台をお届けしたいと思っております。
坂東玉三郎―――
2000年から鼓童の本拠地の佐渡に通わせていただいており、青木さんから、何かジョイントして舞台を作ることができないかとお話をうかがっていました。
2003年には鼓童のコンサートの演出をさせていただき、本拠地の佐渡で、いろいろ見学して勉強してみて、自分の中で“鼓童の方々と一緒に舞台に立つなら、アマテラスのようなものを…”と、イメージしておりました。
そして昨年、世田谷パブリックシアターと京都南座で『アマテラス』を上演させていただきました。おかげさまで舞台も大変良い評価を受けたものですから、私も内心歌舞伎座で上演できればと考えていました。
私は、歌舞伎座・南座・松竹座といった劇場で育ちました。常日頃舞台に出させていただいている歌舞伎座での今回の『アマテラス』、さらに良い出来にしなくてはいけない…と思っております。
昨年までとの演出の違い―――
坂東玉三郎―――
世田谷パブリックシアターはどちらかというと奥行きが広く、間口の狭い縦長の舞台です。南座は間口の広い劇場ですから、世田谷のときよりも、さらにお客様に対して“開けた舞台”という感覚を、鼓童のプレイヤーが持てたと思っています。
歌舞伎座では、さらに間口が広くなります。これをどのように演出するか、今はまだ、考えがそれほどまとまっておりません。基本的な演出はそれほど変わりませんが、花道を使用したり、世田谷の時よりも胴の長い大太鼓をつかって音に深みを出すように出来ないか、など考えています。
玉三郎さんの魅力について―――
鼓童・石塚充―――
舞台での美しい姿はもちろん、7年前から稽古をご一緒させていただくようになってから、玉三郎さんの心の大きさ、感性の豊かさ、そしていつも自然体でいらっしゃることに、すごく刺激を受けています。
演出家としても、厳しく優しく、私たち一人一人を育ててくださって、『アマテラス』を通して僕たちも成長できたと思っています。
歌舞伎座という大きな劇場での公演について―――
坂東玉三郎―――
鼓童の公演は世田谷パブリックシアターや文京区シビックホールなど、提携のある劇場での公演が多いんです。そこには、鼓童のファンの方や各劇場のファンの方がお客様としていらっしゃる。でも南座で公演を行ったことで、様々なお客様に観ていただく経験を、鼓童のプレイヤーが持てたと思っています。
コンサート的な雰囲気で来ているお客様ばかりなら、開演前から静かということもありますが、南座の開演前はワーッとしています。そして、太鼓がなってからから“どうなるのかな”と思うお客様もいらっしゃいます。でも、演奏が始まると静かになって、プレイヤーが個人の芸を披露したりすると、かえってどんどん拍手をしたり、喜んだりしていらっしゃる。
南座という大きな劇場で演奏することで、“太鼓は楽しめるもの”ということを改めて実感できたと思うんです。そうして私も、“歌舞伎座でもやりたいな”と思うようになったと感じています。
南座で感じたこと―――
鼓童・堀つばさ―――
初めて南座で太鼓を鳴らしたときの音の良さに、すごくびっくりしました。太鼓というのは、木をくり抜いて、牛の皮をはって出来ているんです。南座の建物と、自分たちの木から出る音の波長がしっくりとしていて、初めて体験する音の柔らかさでした。今度は歌舞伎座でどんな音がするのか今から楽しみにしています。
鼓童との共演について―――
坂東玉三郎―――
鼓童の舞台から、集中して修行をしてきた太鼓打ちの純粋さ、素朴さ、雑念の無さ、そういったものを感じ、その良さをなるべく傷つけないように『アマテラス』を作りたいと考えました。
演出では、舞台でしゃべるかしゃべらないか、曲に歌詞をつけるかどうか、脚本をどうするかも話し合い、極力言葉を少なくすることにしています。
さらに、お客様にお見せするものを作る上で、見せていくのか、それとも、ただ打ってるとこを見ていただくのか、ということも問題になりました。コスチュームをどうするのか、どこまでお客さんとのコミュニケーションをとるか、あるいは、取らないのか、ということも話し合ってきました。
そして、見せるものを作るというよりも、ひたすら叩くものを見ていただく、それが結果的に見ていただけるものになれば、ということになったんです。
鼓童との競演で得たもの―――
坂東玉三郎―――
一言でいうのは大変むずかしいのですが、“楽しんで作った”ということが自分にとって、一番得られたものだと思います。
歌舞伎役者として稽古を重ね修行を続けて来て、若手の頃から今日に到るまで、様々な葛藤があると思うんです。
しかし、佐渡に来てみると、皆さん太鼓を叩いて集中している。世の中の事も考ずに"自分の表現”を考えようとしている…そんなところもあるのではないかと思うんです。そういう環境で雑念をはらって楽しむものを作れたということが、自分にとって大きな収穫でした。
佐渡で、踊ったり唄ったり、あるいは現地の人と話していくと、都会で芝居をしたり踊ったりしていくことに対して、自分の中に、余裕というか、考えの巾が生まれてきます。佐渡の自然の中で、物を静かに考えられる、そうして浮かんだ考えを、もう一度考え直す。そういうことが出来るのは、私にとっては大切なことなんですね。
佐渡ほど、空気の良いところはなかなかないし、海も山も近いし、そこで皆でお弁当食べたり(笑)・・・それがなんだか、自分が子供の頃に俳優になりたくって、お客様の前に出る事を考えずに踊っていた時分と感覚が良く似ていたんです。そうして東京に帰ってからもう一回何かを考えられる。
都会で芝居をしていて、原点に戻るとか、昔のままの芝居をするとか、そういう事はもう不可能でもあるだろうし、実際自分でもどうやってよいかも分からないんです。むしろそれは、イメージだったり、自分の希望だったり、夢であったり。そういう物を想像することで、次の物を作る余裕が生まれるようになったと思っています。
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昨年大反響を呼んだ、玉三郎と鼓童の共演『アマテラス』。この夏の歌舞伎座公演は、演劇界においても大きなインパクトを与える公演として注目されています。歌舞伎座に響く太鼓、舞踊と音空間が織りなす幻想的な日本神話の世界。その魅力を存分にご堪能下さい。