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吉右衛門が語る「秀山祭九月大歌舞伎」

吉右衛門が語る「秀山祭九月大歌舞伎」

 

 

 9月1日(木)から始まる、歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」に出演の中村吉右衛門が、公演への思いと出演する『一條大蔵譚』『吉野川』について語りました。

「秀山祭」初の大蔵卿

 初代中村吉右衛門を顕彰する「秀山祭」、その初代の「ハムレットのような心境をとり入れた大蔵卿の型、演出」を当代吉右衛門が見せるのが、昼の部の『一條大蔵譚』です。「十数回もやって、やればやるほど面白みと工夫と、いろいろなことを考えさせられる狂言。せりふの意味合い、深さがわかってくるにつれ、どうお客様に伝えたらいいのかが悩ましくなる」と言います。

 

 「大蔵卿は自分のやりたいことをすべて隠し、阿呆の振りをしなければならない己が人生、生き様を哀しみ、そして楽しんでいる。洒落のわかるお公家様です」。振りをするよりいっそ死んだほうがいいのではと、ハムレットのような心境ではあるけれど、「To be or not to be(生きるべきか死ぬべきか)と言って苦悩を如実に見せるのでは、歌舞伎でなくなってしまう。自分をあざけっているせりふ一つに、その悩みを出せたら」と例に挙げたのは、「命長成、気も長成。ただ楽しみは狂言舞」です。

 

吉右衛門が語る「秀山祭九月大歌舞伎」

 「貴公子が時勢により活躍できず、阿呆の振りをしていなければならない、さぞ苦しいだろうなとお客様がじんとくる。初代の芝居では、皆さんあそこでほろりとなさったらしい」。勉強会で初めて大蔵卿を演じたのは15歳。出演回数を重ねた今、歌舞伎の“味”を出すためにはまず、「自分が楽しんでやらないと、その余裕も生まれない」と、新たな境地で「秀山祭」では初の大蔵卿に臨みます。

 

 今回の『一條大蔵譚』では、14歳のときに当代吉右衛門の部屋子となり、後に、一昨年逝去した二代目中村吉之丞の芸養子となった吉之助が、三代目吉之丞を襲名します。初代吉之丞は「大番頭!」と声がかかったほど播磨屋にとって大切な人で、二代目吉之丞もいい先生だったと二人の思い出を語った吉右衛門は、「吉之丞は吉右衛門にとって非常にためになる、ともに歩いて足元を照らしてくれる役者」と話し、三代目もそうなってもらえればと期待を寄せました。

 

初代の型では初挑戦となる大判事

 夜の部は、歌舞伎座新開場後、初の上演となる『吉野川』で、吉右衛門は14年ぶりに大判事を勤めます。「(六世中村)歌右衛門のおじ様の定高で大判事を勤めたのが最初(昭和63年5月歌舞伎座)。幸四郎の兄と中日(なかび)交代の後半で、兄が初代の型で演じるだろうと思い、私は(二世尾上)松緑の叔父に頼んで教えていただきました。今回は秀山祭なので、(初代のやり方を受け継いだ)実父の(初世松本)白鸚の型でさせていただきます」。

 

 5度目にして初めての演技、演出に挑戦。「所作がまったく違います。久我之助の首を斬るときも、屏風の陰で切るのではなく、(『一谷嫩軍記』の)「陣門・組打」で敦盛にするように、屏風に飛び込ませて斬ったりします。せりふも少し違います」。また、大判事は定高が突っ込んでくるのをどう受けて返すのかが大事で、初演では大先輩にぶつかっていくプレッシャーも大きかったけれど、「時代物のお芝居の仕方を教えていただきました」と振り返りました。

 

 「川が流れ、桜爛漫の中での若い人たちの悲劇。大蔵卿がハムレットなら、こちらはロミオとジュリエット」と例えた吉右衛門ですが、我が子を手にかける大判事の苦悩は、大蔵卿のような複雑なものではないとも語りました。「倅を切腹させることで、朝敵、入鹿を退治する一つの功が立てられる。武士としてその悲しみに耐える」。親としての普遍的な苦しみ、悲しみがお客様に伝わるかどうかは「竹本さん一つ」と、義太夫の大切さにも触れました。

 

「初代の足元にたどりつきたい」

 初代が生まれて130年、二代目襲名から50年。「我々の年代は、教わったことだけを見つめて走って来たので、あまり横を見たり、自分を振り返ることがありませんでした。やっとこの頃、その余裕が少し出てきたので、役者の味も出せるのではないか」と考える一方、「やればやるほど初代の偉大さが身に沁みて、秀山祭の千穐楽には、毎年、まだ足りないと思う」と明かし、「やりたい役はいくらでもございます」「前を見てこれからもやっていこうと思います」と、目を輝かせました。

 

 初代を顕彰する「秀山祭」は、このほかもゆかりの演目が並びました。『碁盤忠信』は初代が手がけた芝居で、『らくだ』は大阪のやり方とは別に、初代が東京で初演したものが受け継がれています。初代が踊りをあまり手がけなかったのは、同時代の「六代目菊五郎、七代目三津五郎、名手二人に遠慮して」のことだそうですが、今回は、心理を深く掘り下げる時代物の前に、狂言舞踊の『太刀盗人』を又五郎と錦之助が踊り、最後は玉三郎の『元禄花見踊』に若手が勢ぞろいして華やかにお客様を送り出します。

 歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」は、9月1日から25日(日)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットWeb松竹スマートフォンサイトチケットホン松竹にて販売中です。

2016/08/13