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時蔵が語る、歌舞伎座『雪暮夜入谷畦道』「直侍」

時蔵が語る、歌舞伎座『雪暮夜入谷畦道』

 

 3月4日(木)から始まる歌舞伎座「三月大歌舞伎」第二部『雪暮夜入谷畦道』「直侍」に出演する中村時蔵が、公演に向けての思いを語りました。

お客様に喜んでいただける舞台を

 『雪暮夜入谷畦道』「直侍」で、1年1カ月ぶりに歌舞伎座の舞台に立つ時蔵。「早く100%のお客様が入られるようになって、元のようにお客様に喜んでいただければと思っています」と、今の心境を口にします。

 

 演じるのは、これまでも何度も演じた経験がある遊女、三千歳。「一番最初は、平成4(1992)年に浅草公会堂で三津五郎さん(十世三津五郎)と一緒にやりました。二人で菊五郎のお兄さんにお稽古してもらった思い出があります」と、感慨深げに語ります。菊五郎演じる片岡直次郎との組み合わせは、今回で4度目。「お兄さんはやはり、(直次郎と三千歳の)両方の役をなさっているので、三千歳のことをよくわかっていらっしゃいますし、やりやすいようにやらせてくださるので、いつも安心して任せっきりです」と、確かな信頼感をのぞかせました。

 

先輩の教えを胸に演じる三千歳

 作品の魅力として江戸の風情を第一に挙げながら、「蕎麦屋の場面を観たお客様が、帰りにどうしてもそばが食べたくなった、というような話もあるくらい、その世界に引き込む。世話狂言は、古きよき時代の江戸の風情が出ることが大事だと思います。そのためには、若いときから昔のことを知っている先輩方にいろいろな話を聞いて、想像することが大きいですね」と、情感あふれる舞台の秘訣を語ります。

 

 また、余所事浄瑠璃の音色にのせて直次郎と三千歳の逢瀬が描かれる大口屋寮の場面では、「舞踊的な要素も多分にありますが、大事なことは“踊らないこと”だと教わりました。きっちりと形をきめないといけないところはきめ、あとはうまく芝居で処理できたらと思いながら演じています」と語ります。「慣れは怖いというのがあって、教わったことをもう一度思い出し、洗いなおすことはよくしていますし、これからもやっていくつもりです」と、余念がありません。

 

 三千歳の役づくりについては、とにかく直次郎への思い「その一点」だと言い、「気持ちの切り替えがストレートなので、やりやすい役です。歌舞伎で描かれている女性、特に遊女は一途なんですよね」と、分析。そんな三千歳が、待ち焦がれた直次郎の来訪を知り登場する場面は、「一つの眼目だと思います。歌舞伎では出をとても大事にしていて、出てくる前のことをお客様に想像していただけるような出方をしたいといつも思っています」と明かしました。

 

時蔵が語る、歌舞伎座『雪暮夜入谷畦道』

 

教えは次の世代へ

 昭和56(1981)年に五代目中村時蔵を襲名し、今年で40年。「年のことはあまり意識してないんですよ。若い役をやるときはいつまでも若い気でいたいと思います。ただ、上手くバトンタッチしていくことが歌舞伎として大事なことだと思いますし、ともかくさまざまな役をやるので、一つひとつの役の尾を引かず、ガラッと変わって次の役にのめりこめるように」と、女方としての思いを口にします。

 

 また普段から、若い世代との交流を心がけているという時蔵。「なるべくフランクに話をしてみて、情報を仕入れるようにしています」と笑顔で述べます。芸においても、「歌舞伎はとても狭い世界で、一つの大きな家族みたいなもの。親のない私にも皆がとてもよく教えてくれたので、その恩返しと思って、先輩たちから教わったものを、なるべく教わったままで次の代に繋げていきたい」と、自らの使命を強い決意で語りました。

 歌舞伎座「三月大歌舞伎」は、3月4日(木)から29日(月)までの公演。チケットは、2月14日(日)から、チケットWeb松竹チケットホン松竹で発売予定です。

2021/02/10