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猿之助が語る、歌舞伎座『日蓮』

猿之助が語る、歌舞伎座『日蓮』

 

 6月3日(木)から始まる歌舞伎座「六月大歌舞伎」第三部『日蓮』に出演の市川猿之助が、公演について語りました。

 「日蓮聖人降誕八百年記念」と冠し上演される『日蓮』は、横内謙介が構成・脚本・演出、猿之助が演出・主演をつとめます。戦乱のなか、飢餓や疫病が流行り、世相が混乱を極めたことで、人々が救われぬ世に疑問を抱いた蓮長が、強い信念を胸に、日蓮へと名を改めるまでを描きます。

 

現代にも通ずる日蓮の信念

 今回の作品で、日蓮聖人の若年期を中心に劇化する理由について、「世の中を救いたい、人々に幸せになってほしい、そういった日蓮の熱い思いを伝えたい」と語った猿之助。日蓮は、世の中と果敢に関わっていくという側面を強調されることが多いことからも、「スーパースターであるがゆえに、“宗教の芝居か”と、敬遠される方もいらっしゃると思いますが、日蓮聖人の御消息(手紙)を読んだ際、そこから優しさと愛を感じた」と話し、上演する『日蓮』についても、「心温まる内容になると思う」と、思いをにじませます。

 

 「最澄の精神を受け継いだ日蓮の、心の師に対する傾倒の仕方」、そんな日蓮の情熱も猿之助が舞台で表現します。そのため本作では、猿之助の希望で、同時代を生きていない最澄と日蓮が同じ舞台に登場します。最澄が天台宗を開いた比叡山で修行をする過程で、今を生きることの大切さを説く「法華経」こそ、混乱した世の中で苦しむ人々を救うと確信した日蓮。「一つのことを一所懸命やれば、やがてそれは千を照らすことになる、という最澄の言葉に感銘を受けて一つを極めたのではないかと思うんです。そして、そのために比叡山を下りる。そこをぜひ演じたい。なかなか描かれない部分ですから」と、熱を込めます。

 

猿之助が語る、歌舞伎座『日蓮』

 

心に沁みる芝居を

 また、この作品を通して伝えたいと猿之助が強調したのが、日蓮が生きた時代と現代の共通点。「今のコロナ禍と同じように、日蓮の時代も疫病が流行っていた。奇しくも今の我々と、劇中の日蓮の気持ちが重なります。生きているこの世で救わなければならない。生まれてきてよかったと思える世の中をつくりたい。理想に燃えて、日蓮は山を下りた。そういう作品にしたい」と話し、現代のコロナ禍に希望の光を照らします。

 

 サブタイトルの「―愛を知る鬼(ひと)―」について、「世の中に対して怒る、不満をもつ、というのは愛があるからこそだと思うんです。日蓮は愛があった」、だからこそ、世の中に疑問をもち、強い信念を見出した、という内容を表現しているとのこと。さらに、「鬼子母神」を例に出し、「日蓮宗は(鬼の字の)角をとるんです」。今回はそれにかけて、“鬼”を“ひと”と読ませるようにしたと説明。博識を披露した猿之助は、「非常にマニアックなんですけどね」と、笑顔を見せました。

 

 本作の音楽は、「なるべく皆が対面せず、パソコン上でやり取りができる音源を、ということで全部作曲してもらい打ち込み」になるとのこと。「歌舞伎座は(感染症対策で)信頼を得ていますから、それを崩すようなことはしたくない」と、舞台装置などもできるだけシンプルにし、衛生面にも配慮してつくり上げます。「スペクタクル的なものを一切封じているというのを見てほしいな(笑)。その分、心に沁みる芝居をしたいですね」。

 

芝居の力で生きる力を

 初めて演じることとなった日蓮について、「真理と行動、この二つを兼ね備えた類まれな人だった」と表現した猿之助。一切経を読み、すべてを学んだうえで、自らの信念に基づき教えを弘めた日蓮の姿勢を、「芝居をつくる姿勢と同じ」と話し、共感を示します。今回の作品でも、「芝居の力、信仰の力」を通じて「生きる力」を授けられるのではと話す様子から、舞台への心意気を感じさせました。

 

 「日蓮の、どんな困難に遭遇しても万難を排してやる、という精神に支えられながら、千穐楽まで無事に興行が成功できますよう、日蓮聖人をはじめ神仏のご加護を得て、ひたすら無事を祈ります。何かを求めて観に来てくださったら、お客様それぞれの立場で何かをもって帰っていただけるような芝居にします」。奇しくもコロナ禍と重なった、今回の『日蓮』の上演。日蓮が生きた時代と現代のコロナ禍、そして、日蓮と猿之助がどう重なり、この憂き世にどのようなメッセージを届けるのか、期待がふくらみます。

 歌舞伎座「六月大歌舞伎」は、6月3日(木)から28日(月)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。 

 

※「―愛を知る鬼(ひと)―」の「鬼」は、正しくは角なしです

 

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2021/05/28