ニュース

幸四郎が語る、歌舞伎座『義賢最期』

幸四郎が語る、歌舞伎座『義賢最期』

 

 8月3日(火)から始まる歌舞伎座「八月花形歌舞伎」第三部『義賢最期』に出演の松本幸四郎が、公演に向けての思いを語りました。

義太夫狂言の重み、歌舞伎の美しさ

 幸四郎が出演する『義賢最期』は、昨年の「四国こんぴら歌舞伎大芝居」で襲名披露興行の演目として予定されていましたが、コロナ禍により公演が中止となりました。幸四郎はそのことに触れ、「昨年、松嶋屋のおじ様(仁左衛門)に教えていただいたものがいつか形になるように願っていたので、今回またご縁をいただけることに、いつも以上のうれしさがあります」と、素直な思いを明かしながら、懸命に勤めたいと語りました。

 

 『義賢最期』といえば、戸板倒しや仏倒れなどの見応えある立廻りが有名です。「その動きのコツをうかがったときには興奮がありました。ですがいわゆる発散するものとは違い、思いや怒りを込めた芯の強さが大切で、腹に力の要るお役です。松嶋屋のおじ様のお姿が印象深いですが、どれだけ拵えに負けない自分がいるかが大事。また、どんなに血だらけになっても、滅びの美がないといけない。“美しさ”は歌舞伎の大きなキーワードだと思います」。

 

 そして稽古については、「やはりこれは義太夫狂言。声や音の使い方を徹底して考えなければ成立しないので、そこを重点的に」行いたいと述べた幸四郎。「言葉に気持ちを乗せることで、せりふ回しができてくる。そしてそれが音としてきれいでないといけない。高い音や低い音、強い音と細い音、大きい音に小さい音と細かく教えていただいたうえで、過去の舞台映像を拝見すると、全然計算が見えず、技を感じます。そこを目指したい」と、研究に余念がない様子がうかがえます。

 

幸四郎が語る、歌舞伎座『義賢最期』

 

戻るのではなく、前進していく

 昨年、コロナ禍で劇場公演がしばらく中止となった期間に、動画配信による「図夢歌舞伎」を誕生させました。「再開できないかもしれない不安もありましたが、舞台が開かなければ役者は何もできないのか、いやそんなことはないはずだ、という思いで、リモートでの稽古、配信での歌舞伎に行き着いた」と振り返りながら、「今後は逆に、映像でないとできない歌舞伎作品をつくっていける可能性があるのでは」と、言葉に力を込めます。

 

 そして昨年8月に「八月花形歌舞伎」で歌舞伎座が再開を迎えてから1年。「(コロナ禍は)まだ過去ではなくて現在進行形の話。明日、舞台があるか分からないという毎日の連続で、それは変わりません。元に戻るものではないと思うので、常に前進していかなければ止まった時点で終わってしまう。そういう気持ちがさらに強くなりました。芝居や公演形態など、さまざまな点で、次のステップへ進んでいけたら」と、正直な心境を明かしました。

 

 その例として、稽古の工夫による新作の上演や、大向う再開に向けた対策、新しい公演形態の模索、と次々に頭を巡らせているといいます。「例えば、長い芝居を短くすることによって、もしかしたらもっと凝縮されたわかりやすいものになるかもしれない。そうした積み重ねを経て今に残っている古典もありますし、そのような挑戦もあり得るのではないでしょうか」。そう話す幸四郎の、歌舞伎の前途を見つめる目に曇りはありません。

 歌舞伎座「八月花形歌舞伎」は8月3日(火)から28日(土)までの公演。チケットは7月14日(水)から、チケットWeb松竹チケットホン松竹で発売予定です。

2021/07/09