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「八月納涼歌舞伎」『野田版 研辰の討たれ』の稽古場から
2025年8月3日(日)に始まる歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」第三部『野田版 研辰の討たれ』の稽古が公開され、出演の中村勘九郎、松本幸四郎、中村七之助、市川染五郎、中村勘太郎、中村長三郎が、脚本・演出の野田秀樹とともに公演について語りました。
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20年ぶりの上演
本作は、野田秀樹脚本・演出による野田版歌舞伎の第一弾として、平成13(2001)年8月歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」で初演し、平成17(2005)年5月歌舞伎座、7月大阪松竹座に十八代目中村勘三郎襲名披露狂言として再演され、十八世勘三郎の代表作の一つとなりました。「彼(勘三郎)の面影を追ってしまう部分もありますが、稽古が進んでいくうちに新しいものになっている気がします。若い出演者たちの新鮮さも感じていただけると思います」と、野田が切り出します。

勘九郎は「父の体に、まるで辰次が憑依しているかのような作品でしたので、正直この役を自分が演じるとは思っていなかったのですが、お話をいただけてうれしかったです。革命的な舞台を新しい世代の皆様とつくり上げることが楽しいですし、ブラッシュアップしていけたら」と意気込みました。七之助も「初演の稽古場は今でも鮮明に覚えていて。実は父に演技のことで怒られたとき、野田さんが、“今回は僕が演出家だから”と父にダメ出しをしていました(笑)。憧れの(中村)福助のおじさんの役を今回やらせていただけることがうれしいですし、素敵な作品に携われることに感謝しています」と、笑顔で話しました。

幸四郎も「当時は今より新作歌舞伎が少なかったので、勘三郎のお兄さんが、『作家・演出家が生きていて、話せるのが嬉しい』と言っていたのを覚えています。活気あふれる稽古場で、新しいものを生み出そうと力を合わせてつくり上げた作品ですので、また本作を見ていただけるときが来てうれしい限りです」と、感慨深く話します。染五郎は、「父がやっていた役を演じること、勘太郎くんと兄弟役ができること、何もかもが夢のようで信じられない感覚です。野田さんは細かく演出をつけてくださり、舞台全体の構図の美しさも意識して演出されているように感じますので、その世界観にしっかり入り込んでいきたいです」と、気合を込めました。
勘太郎は、「小さい頃からずっと見ていた作品で、父の演じた役に憧れていたので、とてもうれしいです。毎日楽しく稽古しています」と真摯に答え、野田が「役者は3日目で化けると言いますが、若い力も相まってとても良いです」と添えます。続けて長三郎も「今回新しい役を勤めるので緊張していますが、憧れの作品に出演できるのがうれしいです」と、明るく元気に答えました。
今の時代だからこそ届けたい
作品の魅力を聞かれると、勘九郎は「『研辰の討たれ』というお芝居は昔からありましたが、赤穂浪士の討ち入り要素など、野田さんが追加した部分が作品をより深くしたと感じています。また本作では、“群衆の怖さ”も描かれていて、今の世の中は(SNSの普及により)親指でひどいことも言えてしまう時代だと感じます。寂しいことですが、今この作品をやる意味があるのではないかと強く思います」と、話します。

今回、かつて幸四郎が勤めた役を染五郎が、勘九郎が勤めた役を勘太郎が演じます。その新しさを問われると、野田は「演劇は体を使う芸術ですので、声は似ていても肉体が違うところが面白い部分だと思います。面影を感じつつ、新鮮みも感じることができる。歌舞伎はこうやって変わりながら作品が残っていくんだなというのを、私自身初演から20数年かけて見ることができていて、演出家ですがとても感慨深い思いです」と、喜びを表しました。
初日に向けて
この日は稽古場で、初めての通し稽古の様子が公開されました。勘九郎が辰次の滑稽さを見事に表現し、存在感あふれる家老・平井市郎右衛門を幸四郎が、仇討ちを成し遂げようと辰次を懸命に追いかける兄・平井九市郎を染五郎、弟・平井才次郎を勘太郎が、そして粟津の奥方萩の江と、宿屋で出会う姉娘およしの2役を七之助が演じます。どのような結末が待ち受けているのか、物語の展開に期待が高まります。
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歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」は8月3日(日)から26日(火)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で販売中です。