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歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」初日開幕

歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」初日開幕

 

 2023年8月5日(土)、歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」の初日が幕を開けました。

歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」初日開幕

 前列左より、中村隼人、中村壱太郎、中村七之助、中村獅童、松本幸四郎、中村勘九郎、中村勘太郎、坂東巳之助、坂東新悟、後列左より、市川團子、市川染五郎、中村虎之介、中村橋之助、大谷廣太郎、中村児太郎、中村福之助、中村歌之助、市村光

 平成2(1990)年に始まり、すっかり夏恒例となった歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」。今年も気軽に楽しめる三部制で、趣向に富んだ舞台をお届けしています。初日の開場前には、出演者18名がそろいの浴衣姿で、歌舞伎座の正面玄関前に登場しました。

 

 公演への思いを書き入れたうちわを手にした18名を代表し、幸四郎、獅童、勘九郎、七之助、巳之助、隼人が、早い時間からお集まりのお客様へご挨拶。うちわに「歌舞伎愛」と書いた幸四郎は、「歌舞伎の底力を皆様にお見せしたい、ぜひ多くの方に観ていただきたいと思います」と意気込み、お客様とふれあう久しぶりのイベントに、笑顔があふれました。出演者の思いが込められたうちわは、公演期間中、歌舞伎座2階のロビーに展示されていますので、ご観劇の際はぜひご覧ください。また、ご観劇いただいたお客様にうちわが当たるキャンペーンも実施中。詳細はこちらをご確認ください。

 第一部は、『裸道中』から。秋祭りの祭り囃子が聞こえる勝五郎の家では、博打のために家財道具も売り払い、貧乏のどん底にいる勝五郎(獅童)とみき(七之助)夫婦がいつものように口喧嘩をしています。そこへ、子分たちを引き連れた清水の次郎長(彌十郎)が女房お蝶(高麗蔵)の病気を労りながら、偶然にも勝五郎の家を訪れます。かつて次郎長から受けた恩義に報いようとする勝五郎は、なんとか次郎長一行(男女蔵、橋之助、虎之介、市村光ら)をもてなそうとしますが…。勝五郎の思いついた画策が、さらなる騒動を巻き起こし、テンポの良い掛け合いに笑いが絶えません。勝五郎とみきの夫婦愛、次郎長親分の人情、人と人の心のふれあいにほろりとする物語に、場内は大きな拍手に包まれました。

 

 続く『大江山酒呑童子』は、昭和38(1963)年に十七世勘三郎に書き下ろされ、十八世勘三郎、そして当代の勘九郎に受け継がれた中村屋ゆかりの舞踊劇です。夜な夜な都に現れて女をさらうという大江山の鬼神を退治するため、源頼光(扇雀)は平井保昌(幸四郎)と四天王(巳之助、橋之助、虎之介、染五郎)を従えて、山伏姿に身を変えて大江山へと向かいます。やがて童子の姿で忽然と現れた酒呑童子(勘九郎)は、勧められる酒が毒酒とも知らずに盃を重ね、舞を披露。酩酊した童子が奥の寝所へ引っ込むと、酒呑童子にさらわれた濯ぎ女たち(七之助、新悟、児太郎)が現れ、頼光一行を寝所へ案内。そこには鬼神の本性を現した酒呑童子が…。酒を好む酒呑童子が酔態しながら舞う愛らしい姿から一転、恐ろしい形相での激しい立廻りまで、洒脱で豪快な舞台をお楽しみください。

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 第二部は真山青果作の骨太な人間ドラマ『新門辰五郎』で幕を開けます。江戸時代末期、黒船来航をきっかけに、時代の転換期を迎えた日本。天皇の許可を得ずに開国に踏み切ろうとした幕府と、会津藩をはじめとして幕府を支える佐幕派、一方で水戸藩や長州藩などは弱腰な幕府の姿勢に反対して攘夷(外国排斥)を唱え、天皇を尊ぶ尊皇思想と相まって、国内の情勢は乱れていました。特に朝廷との融和を図る幕府が、将軍を上洛させて公武合体を目指した京の地では、激しい争いが絶えません。そんな政争渦巻く京の町を舞台に、江戸町火消の浅草十番「を組」の頭・新門辰五郎(幸四郎)と、京都黒谷会津部屋の部屋頭・会津の小鉄(勘九郎)、市井に生きながら図らずも歴史の荒波に巻き込まれてしまった二人の男の意気地を中心に物語が展開します。

 

 賑わいを見せる祇園社に、辰五郎を気遣う「を組」隠居役の勇五郎(歌六)が、辰五郎伜の丑之助(勘太郎)を探してやって来ます。そこには素性を隠して行動する公卿の山井実久(獅童)の姿も。ある日、辰五郎馴染みの芸者・八重菊(七之助)の家へ、過激な尊皇攘夷思想をもつ水戸天狗党の若侍・都築三之助(染五郎)らを匿ったことから、一つの事件が発生します…。新門一門が纏を振りながら火事場に向かう場面は、劇場を揺るがす迫力に満ち、気迫のこもったせりふの応酬は、真山作品ならではの魅力にあふれます。歌舞伎座で実に47年ぶりに上演された群像劇をご堪能ください。

 

 幕間を挟んで、舞踊『団子売』。天神橋に、評判の団子売りの杵造(巳之助)とお福(児太郎)夫婦がやって来て、息の合った踊りを見せます。江戸時代の庶民に親しまれた団子売りの姿を舞踊化した作品で、義太夫の派手やかな演奏に乗って、五穀豊穣、子孫繁栄の願いを込めた舞踊のひと幕に、明るく幸福感に満ちた客席はあたたかい空気に包まれました。

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 第三部は、三代猿之助四十八撰の内『新・水滸伝』です。市川猿翁(当時 三代目猿之助)がスーパー歌舞伎を彩ったスタッフたちとともにつくり出した本作を、初演以来の横内謙介の作・演出、スーパーバイザーに猿翁、そして新たに杉原邦生が演出に加わり、初演以来の魂を継承しながら、新たな魅力を放つ痛快娯楽大作として、平成20(2008)年8月の初演から15年、満を持して歌舞伎座に初登場します。

 

 幕が開くと、これまでの上演とは異なる水墨画をイメージした舞台装置で観客を一気に作品世界へと誘います。梁山泊に根域を構え、悪党を束ねて暮らす晁蓋(中車)は役人たちの不正に憤り、毒をもって汚い国家を打破しようとしています。腹心の公孫勝(門之助)から、かつて兵学校の教官まで務めながらも数多くの罪で牢に繋がれている天下一の悪党・林冲(隼人)の噂を聞くと、李逵(福之助)らとともに助け出します。梁山泊にやって来た林冲は、姫虎(笑三郎)ら周囲とそりが合わず、酒浸りの日々。そこへ、兵学校の教え子で今は朝廷軍の兵士となった彭玘(團子)が密かに訪ねて来て、林冲から授けられた「替天行道(たいてんぎょうどう)」の書を捧げますが、邪険に追い払われてしまいます。

 

 都では、林冲の命を狙う朝廷の重臣・高俅(浅野和之)が、側近の張進(歌之助)に梁山泊を成敗するように指示し、梁山泊の対岸に位置する独龍岡の若き跡取り祝彪(青虎)とともに梁山泊に攻め込みます。その戦いのなかで、梁山泊の王英(猿弥)が刀を交えた青華(笑也)にひと目惚れする恋模様も。そこにお夜叉(壱太郎)のサポートも加わり、荒くれ者たちの激しいぶつかり合いの物語のなかに、ユーモアにあふれたテンポのよい掛け合いが、終始笑いを巻き起こします。王英とお夜叉が敵方に捕まり、人質交換として林冲は一人敵陣に向かいますが…。梁山泊では、燕青(寿猿)や時遷(嘉島典俊)らが一丸となり結束力を固め、やがて林冲の兄貴分・魯智深(幸四郎)も加わります。林冲の飛龍による宙乗りでは、その天翔ける姿に拍手が送られ、歌あり、立廻りあり、スペクタクル性に富んだ躍動感あふれる舞台に、熱気が高まりました。

 歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」は27日(日)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

2023/08/10