2024年3月3日（日）、歌舞伎座「三月大歌舞伎」の初日が幕を開けました。

▼

　昼の部は『菅原伝授手習鑑』より「寺子屋」で幕開きです。武部源蔵（愛之助）と戸浪（新悟）夫婦が営む寺子屋では、涎くり与太郎（鷹之資）ら子どもたちが勉学に励んでいます。匿っている菅秀才の首を討つように命ぜられ苦悩する源蔵は、母親・千代（梅枝）に連れられ今日寺入りしたばかりの小太郎（丑之助）を菅秀才の身代わりにします。首実検を勤めるのは、菅秀才の顔を知る松王丸（菊之助）。嘘をつけば命はないと春藤玄蕃（萬太郎）が脅し、緊迫感が高まりますが…。忠義心と親子愛の間に揺れる人々の姿に、胸を打たれるひと幕となりました。

 

　続いては、四世中村雀右衛門十三回忌追善狂言『傾城道成寺』。四世雀右衛門の次男である当代雀右衛門、長男・友右衛門、友右衛門の長男・廣太郎と次男・廣松や、菊五郎はじめ所縁の出演者で故人を偲びます。鮮やかな衣裳をまとった傾城の清川（雀右衛門）は、深い仲の平維盛（松緑）にひと目会いたいと道成寺にやってきました。安珍と名乗り出家に臨もうとする維盛が姿を現すと、清川の髪は次第に乱れ、情念を表す炎があしらわれた衣裳に早替り。導師尊秀（菊五郎）と二人の童子（亀三郎、眞秀）が登場し、蛇身と化した清川を鎮めます。切ない恋心と燃えたぎる執着をみせる追善の舞踊に、温かい拍手が送られました。

 

　昼の部の切は、『御浜御殿綱豊卿』。次期将軍と目される徳川綱豊卿（仁左衛門）の邸宅・御浜御殿で、綱豊の寵愛を受けるお喜世（梅枝）は浦尾（萬次郎）の詰問を受けているところ、江島（孝太郎）の助けを借りて兄・助右衛門（幸四郎）がお浜遊びを見る許可を得ます。綱豊が政治に無関心であることを隠すためにほろ酔いを装う様から、師である新井勘解由（歌六）に対して仇討と浅野家再興の間で葛藤する旨を打ち明ける厳かな様へ移り行く姿に、観客は徐々に物語へ引き込まれていきます。御殿へやってきた赤穂浪士の助右衛門を呼び出し、真意を確かめようと綱豊が次々と挑発。最後は、能装束姿の綱豊と、熱情にかられた助右衛門の立廻りでの歌舞伎の様式美、そして本当の忠義とは何かを諭す綱豊の長ぜりふに大きな拍手が送られました。

◇

　夜の部は『伊勢音頭恋寝刃』で幕を開けます。このたびは物語の発端から、歌舞伎座では実に62年ぶりの上演となる「太々講」を加え、お馴染みの「油屋」「奥庭」までを通し狂言でお届けします。今田万次郎（菊之助）は、お家横領の画策に巻き込まれた主君から名刀「青江下坂」の探索を命じられていますが、刀の折紙を悪人に騙し取られてしまいます。そこで家来筋に当たる御師の貢（幸四郎）が刀と折紙の詮索を命ぜられ、二見ヶ浦へ向かいます。奴の林平（歌昇）が密書を取り戻すため、お家乗っ取りを企む徳島岩次の手下らと追いかけあう場面では、客席に降りる演出が場内を盛り上げ、だんまりや、井戸や地蔵を使った演出に、観客も沸きます。

 

　続く「太々講」は、貢の叔母・おみね（高麗蔵）によって刀にまつわる因縁話が明かされるだけでなく、正直正太夫（彦三郎）が言い逃れをしようと死んだふりをするなど、おかしみあふれる場面です。やがて折紙を取り戻すために油屋へやってきた貢が、油屋の料理人で家来筋の喜助（愛之助）と立ち働くなか、岩次に加担する仲居の万野（魁春）はわざと貢を邪険に扱い、お鹿（彌十郎）の恋心を利用して貢に大恥をかかせます。さらに貢の恋人・お紺（雀右衛門）までが不実をなじり、愛想づかしをすると…。ぴんとこなの典型とされる貢、つっころばしの万次郎、貢を助ける料理人喜助らの、細やかな人間描写や名刀を巡る人々の思惑、手に汗握る展開が客席を魅了しました。

 

　最後を飾るのは、『六歌仙容彩』より『喜撰』。桜の花が咲き乱れる京の東山へ、ほろ酔い気分でやってきた喜撰法師（松緑）。祇園の茶汲み女お梶（梅枝）に見惚れ、おどけた踊りで口説きにかかると、お梶は艶やかな舞で応じます。江戸の大道芸である「チョボクレ」、女性の振りを模して踊るユーモラスな舞いに続き、大勢の所化が当時流行りの住吉踊りを賑やかに披露します。亀三郎、眞秀、小川大晴らが勤める愛らしい所化姿にも拍手が送られ、一足早い春の風情が客席いっぱいに広がりました。

▼

　歌舞伎座場内1階ロビーには、四世中村雀右衛門十三回忌追善の祭壇もしつらえられ、改めて故人を偲び、手を合わせるお客様の姿も見られました。また、二階ロビーには四世雀右衛門の思い出の写真パネル展示が行われています。

 

 　また、歌舞伎座地下2階の木挽町広場では、3月28日（木）まで、有名作家作品を集めたおなじみの人気企画・第7回「ねこ展～ねこ・猫・ネコ　アート＆グッズフェア」を開催中。お近くに来た際にはぜひお立ち寄りください。

 

　歌舞伎座「三月大歌舞伎」は、26日（火）までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で販売中です。