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松緑、坂東亀蔵が語る、歌舞伎座『無筆の出世』
2025年4月3日(木)から開幕した歌舞伎座「四月大歌舞伎」『無筆の出世』に出演の尾上松緑、坂東亀蔵、講談師・神田松鯉が、公演に向けての思いを語りました。
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歌舞伎座「四月大歌舞伎」夜の部では、人間国宝である講談師・神田松鯉の講談の名作『無筆の出世』が、新作歌舞伎として上演されます。松緑が主役を勤めて好評を博した『荒川十太夫』『俵星玄蕃』に続く、講談シリーズの第三弾となる本作品では、松鯉が講談の提供だけではなく劇中に出演します。講談師がひと月にわたって歌舞伎座での本興行に出演するのは、歌舞伎座史上初となります。

主人公の中間治助後に松山伊予守治助は松緑、そして、公演中の水曜日 (9・16・23日)は、亀蔵がダブルキャストで勤めます。「『荒川十太夫』に続き昨年末の『俵星玄蕃』も、お客様に受け入れていただき、3作品目を松鯉先生にご相談したときに、ご自身の速記本から起こされた『無筆の出世』が、ハッピーエンドで良いのでは、と仰ってくださいました」と、振り返る松緑。主人公の治助は、酒癖の悪い主人から受けた仇を恩で返す人物です。「とにかく素直で良い人間ですが、文字が読めないハンデなどが発奮材料となることは明確に舞台の上で表していきたく、脚本家、演出家、亀蔵さんと相談をしています。ダブルキャストですが、すでに稽古でキャラクターの違いが出ており、まったく違う人物像ができて面白くなるのでは」と、期待を口にします。

亀蔵は、「松鯉先生の高座を聞き、台本を読み込んでいくうちに伝わってきた治助の心に、そのまますんなり入れる感覚がありました。治助は一所懸命生きているなかで周りの人に助けられ、奉公先も紹介され、恩人となる(夏目)左内にも出会う。助けを得られるというのは、魅力的な人物だからだと思いますので、恩返し=世のため、人のためになりたい、という気持ちで字を習う、まっすぐなところを出していきたいです。前2作でも、普段はやらないようなお芝居の方法など、講談のシリーズの歌舞伎がなかったらできなかった経験をさせていただき、今回も新たな発見がたくさんあるのではと楽しみです」と、気合いを滲ませます。

「日本のお芝居の殿堂である歌舞伎座に出演させていただけることを、本当にありがたく思います。私は(二世)中村歌門先生のもとで、歌舞伎を学んでいた時期がございます。歌門先生のお父さんは、二代目談洲楼燕枝さん。噺家の息子さんが歌舞伎の俳優になって、その弟子だった私が、逆に寄席の芸人の講釈師になったのは不思議なことです。ほんのわずかな期間ですが、黒衣を着ておりましたので、歌舞伎座には懐かしい思い出がたくさんあります」と、松鯉も感慨を込めます。「講釈本を山ほど読んで発見したのは、人間の美しい生き方。今回の物語でも、たとえ仇であっても相手が力のない存在になっていれば、温かい眼差しを注ぐという、これはやはり講談のもつ美学の一つだと思います」。
松緑は講談の魅力について「生活の身近なところにあるお話で、講談はその人物がやってきたことを褒める演芸であると考えています。その人がどう生きて、考え、行動してきたかという生き様を披露する、一人の人物のストーリーを語るという点で、歌舞伎に即しているとも思います。見終わったあとに、お客様には温かな気持ちになっていただる作品」だと、気持ちを込めて、締めくくりました。
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歌舞伎座「四月大歌舞伎」は、4月25日(金)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で販売中です。