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松緑が語る、歌舞伎座『義経千本桜』

松緑が語る、歌舞伎座『義経千本桜』

 

 2025年10月1日(水)から始まる歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」通し狂言『義経千本桜』に出演の尾上松緑が、公演へ向けての思いを語りました。

音羽屋の型で勤める、いがみの権太

 平成31(2019)年2月歌舞伎座で、父・初世尾上辰之助の三十三回忌追善狂言として「すし屋」いがみの権太を初役で勤めて好評を博し、2度目となる今回。第二部Aプロ(10月1日~11日)で松緑が江戸の音羽屋型で、Bプロ(10月12日~21日)で仁左衛門が上方の型でそれぞれ演じます。「仁左衛門のお兄さんが勤められる上方の型とうちの型とでは、演じ方が大きく異なりますので、ご相談にうかがったところ、『(松緑が音羽屋型で演じることで)お客様に、ひと月の間に違った“すし屋”をお楽しみいただける』と、おっしゃっていただきました」と、明かします。また、「『木の実』を勤めるのは初めてなので、(七代目尾上)菊五郎のお兄さんに教えていただきます。『木の実』からの上演で、権太が何を思ってすし屋にきているのか、より話の筋がお分かりいただけると思います」と、通し狂言ならではの魅力を語りました。

 

 続けて、「源義経はもちろんのこと、平知盛も佐藤忠信も世の中に影響力のある人物ですが、権太は何をしようが世間の体制にまったく影響しない。そんな男が英雄豪傑に伍して主役の一人になっているのが面白いところです」と、いがみの権太という役の魅力を話し、「権太は今でいうちんぴらですが、家族に対して甘え上手で、根が腐ってないことは周りもわかっている。それなのに…という誤解から悲劇に繋がります。意図的にボタンを掛け違えさせた3人の作者(竹田出雲、三好松洛、並木千柳)の工夫が、弥左衛門一家の悲劇をドラマチックにしています。愛する女房と我が子の命という、自分の命より大切なものを差し出しても報われない小市民の悲しさ。日本人の心にぐっとくる物語だと思います。『義経千本桜』に登場する主人公たちのなかではキャラクターが一番自分に近い、愛着のあるお役です」と、作品と役への思いを明かしました。

 

松緑が語る、歌舞伎座『義経千本桜』

 

親子での共演

 今回初役となる第一部「渡海屋・大物浦」の入江丹蔵(Aプロ)、相模五郎(Bプロ)は、「いつかやりたいと思いながら、その機会がなかったお役」と説明しながら、「息の合う坂東亀蔵さんとダブルキャストで、Aプロ、Bプロ、どちらもご観劇くださるお客様に違いを楽しんでいただけたらという思いです。相模は(十二世市川)團十郎のおじ、丹蔵は父を参考につくります」と、意気込みを語りました。

 

 古典から新作まで近年活躍の幅を広げる長男の左近は、第一部Bプロで「鳥居前」の静御前を、第二部Aプロで「すし屋」のお里、Bプロで「木の実・小金吾討死」の主馬小金吾を勤めます。「うちの家系では珍しく、最近女方のお役を勤めさせていただく機会も増えました。彼の人生ですので、私が演じてきた役をやってほしいとは思っていません。彼がこれからどんな役者になっていくのか、とても興味深くみています。祖父(二世尾上松緑)と父に、『お前は大したことはないが、左近の育て方はちゃんとしていたじゃないか』と言ってもらえるように見守ることが、自分の役目だと思っています」と、温かな父親の表情を見せながら、今回の権太とお里役での共演について「まさか左近と兄妹役を演じるとは。少し楽しみです」と、笑顔を見せました。

 

「報われずとも道を貫く心」

 松竹創業百三十周年となる今年は、3月の『仮名手本忠臣蔵』、9月の『菅原伝授手習鑑』、そして10月の『義経千本桜』と、歌舞伎座で30年ぶりに歌舞伎三大名作を一挙上演。そのすべてにおいて大役を勤めた松緑は、3作品に通じる魅力として「“自らの道を貫く”登場人物たちの姿」を挙げながら、「そのなかでも『義経千本桜』は、義経の足跡をたどるように展開する面白さに加え、知盛と安徳帝や、知盛と義経、また、権太と親、愛する女房、子どもなど、さまざまな別れの形が描かれるなか、狐親子の別れに、子狐と鼓になった親狐との“再会”が付随する。ファンタジー要素も加わり、すっきりとした気持ちでお帰りいただける作品だと思います」と、解釈を述べました。

 

 さらに、永きにわたり愛され続ける三大名作の物語を、「99%の悲劇と1%の救い。この要素を事細かに、非常にうまく散りばめているなと思います。勝ち負けに重きをおくことが多い時代ですが、負けることと、自分の信念を貫けなくなることと、どちらが怖いかというと、たとえ負けたとしても自分の信念を貫けないことのほうが怖いんじゃないかということを、より鮮明に、目の前に突き付けられるのが“三大名作”と呼ばれるこの3作品のような気がします。心に蓋をしている人にも時代を超えて伝わるものがある名作です」と、締めくくりました。

 

松緑が語る、歌舞伎座『義経千本桜』

 特別ビジュアルも公開

 

  歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」は21日(火)までの公演。チケットはチケットWeb松竹チケットホン松竹ほかで販売中です。

2025/10/02