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尾上右近が語る、歌舞伎座『蜘蛛絲梓弦』
2026年1月2日(金)から始まる歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」昼の部『蜘蛛絲梓弦』に出演の尾上右近が、公演に向けての思いを語りました。
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憧れの演目
令和8(2026)年の幕開けに右近が勤める『蜘蛛絲梓弦』は、早替りの趣向を取り入れた変化舞踊です。右近は、憧れの作品の一つであったことを明かし、「新年のエネルギッシュなひとときを過ごしていただきたいと思います。歌舞伎の伝統芸能ならではの厚みと奥行きのある、絶妙なバランスの作品だと思っています」と、演目への思いを語ります。今年4月に歌舞伎座で勤めた『春興鏡獅子』を経た今の思いにも触れ、「自分の歩むべき道、生きるべき道、挑戦するもの、ワクワクするものを見つける気持ちが、また違った速度、大きさで進み始めた気持ちがありました。もしかすると(『蜘蛛絲梓弦』が)その皮切りになるかもしれません」と、並々ならぬ意欲を見せます。
作品のストーリーについて、「源頼光を悩ませる蜘蛛の精が、いろいろな姿・かたちに化けて翻弄するという、シンプルなお話です。なんといってもテンポが良く、約1時間でいくつもの役柄を一人の役者が演じ分けるという、とてもエンタテインメント性のある作品。お客様には、“こんなに楽しい舞踊作品があったのか”と、確実に楽しんでいただけると思います。僕自身もこの演目を、そう感じながら拝見してきました」と、期待を込めます。
役への眼差し
今回は最後の押戻しの平井保昌まで、8役を早替りで勤めます。「女童の扇弥はとても難しいです。薬売りから番頭新造への早替りが一番速いところですし、太鼓持と座頭は同じような雰囲気にならないように、違いをしっかりお見せすることがテーマです。傾城薄雲はこの変化舞踊の核になる役柄です。しっかりとメリハリ、リズムをもって演じたいと思います。最後の押戻しの平井保昌以外は、人間の姿を借りた蜘蛛の精ですので、一貫して怪しさ、不気味さがあり、それが作品の軸になっていると思います」と、説明します。
「役が増えれば増えるほど、ひと役の見せ場、踊る箇所を削り縮めることが必要になり、ややもするとテンポ良く早替りを見せていくだけの舞踊になりかねません。(補綴の)石川耕士先生にもお力をお借りしながら、自分の信念と希望、軸をしっかりともって作品をつくるべきだと思います」と、強い信念を見せ、目指すところは「古典作品と新作のちょうど中間をいくような感覚」という、右近なりの『蜘蛛絲梓弦』に挑む決意を述べました。
感謝の思い
音楽は常磐津と長唄の掛け合いで展開します。「2種類の邦楽それぞれの雰囲気の違いもしっかり出せるように工夫しなければいけません。尊敬し信用している音楽部の先輩方にも存分に頼って、お力をお借りしたいと思っています」。清元栄寿太夫として清元の浄瑠璃方も勤める右近ならではの視点も交え、「とにかくテンポ良く、テンポが良いのにコクがあるというのを思い描いています」と、音楽面を交えた構想を話します。
「(同世代の)坂東巳之助さん、中村隼人さんとともに三人で踊る場面もあります。お二人の存在は大きいですし、市川門之助のお兄さんには頼光を勤めていただけます。皆で作品をつくっているという、意味があるものになると思います。力を貸してもらえることが、とてもうれしいです」と、共演者やスタッフへの思いを熱く語ります。「早替りを手伝ってくださるすべての方々が集中力を持ってやることが大切です。私一人では何もできません。心の底からそう思っています」と、真っ直ぐな眼差しを向けながらも最後には、「あなたの心の絲をからめとります!」と、お客様に向けてユーモアある決めぜりふで締めました。
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歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」は2026年1月2日(金)から25日(日)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で販売中です。
