【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
こども歌舞伎スクール寺子屋 特別企画 歌舞伎、たのしい!
両親ともに本の編集の仕事をしている普通の家庭に生まれました。母が歌舞伎好きで、よくテレビの歌舞伎中継を一緒に見ていたらしく、初めて歌舞伎座に連れて行ってもらったのは2歳のときでした。それからどんどん歌舞伎にはまり、毎月届く松竹歌舞伎会の会報誌「ほうおう」を真っ先に開封して、読み込んで演目のあらすじを覚えてしまうような子になりました。
特に大好きだったのが十一世市川團十郎さんの『切られ与三郎』の白黒の古い映像で、繰り返し繰り返し見るうち、自然と舞台に立つことに興味を持つようになり、親にも「歌舞伎をやりたい」と言っていました。
小学校一年生のころ、新橋演舞場の「東をどり」を見に行き、まき手拭いをいただいたので、幕間に演舞場のロビーで、大好きな与三郎の真似をしていたんです。そう、腕組みしながらお富の家の外で石をけったりして…。すると、80歳くらいのおば様が「あら与三郎じゃないの」と声をかけてくださり、「頬かむりはこうするのよ」と優しく教えてくださいました。おば様は花柳福邑さんという踊りのお師匠さん、これをご縁に日本舞踊のお稽古を始めました。
日本舞踊のお稽古に通っているうちに、お師匠さんが歌舞伎座の関係者の方とお話する機会があり、間をとりもっていただいて旦那(梅玉)にご挨拶させていただきました。ご縁がつながったこと、本当にありがたいことだと思っています。
見習い期間中は、旦那のお手伝い(おじゃま虫?)として楽屋に通い、岡持ちを持って旦那のあとをついて回っていました。歌舞伎座の舞台裏はまさに夢の世界。憧れの俳優さんが目の前を歩いていらっしゃるし、客席からは知ることのできない揚幕の奥、舞台袖、奈落…、兄弟子の案内ですみからすみまで教えていただき、もううれしくてうれしくて。あるとき旦那が、花道の出の前に「この先が花道だよ」と丁寧に教えてくださったのに、「知っています!」と答えてしまったことをよく覚えています。
そしていよいよ初舞台。『御ひいき勧進帳』(平成17年1月国立劇場)富樫の小姓は、緊張よりもただただ楽しくて、嬉々としてやっていました。怖いもの知らずでした。この舞台の後、歌舞伎に必要な稽古事をさせていただくようになりました。
梅丸のお名前をいただき、ありがたいことにいろいろなお役を頂戴しました。「太刀持」は『勧進帳』『茨木』『土蜘』と、たびたび勤めさせていただいています。太刀持はきちんとした姿でじっとしていないとならないのですが、かといってお芝居から浮いてしまってはいけない。旦那や先輩方からのアドバイスを心に、「太刀持は任せてください!」という気合で誇りをもって勤めております。
印象に残っているお役は、抜擢いただいた『日本振袖始』の稲田姫(平成23年11月国立劇場)や、『傾城反魂香』の修理之助(平成26年7月国立劇場)。毎日緊張して勤めました。『時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)』「馬盥(ばだらい)」(平成24年6月博多座)の桔梗は、松嶋屋の旦那にお声をかけていただき、私はもちろん、旦那もびっくりしたお役。普段は穏やかな旦那も、そのときばかりは厳しく、具体的なご指摘ではなく「何か違うなあ」とおっしゃる。考えさせられる厳しいご指導でした。
教えてくださった魁春旦那が千穐楽の日に、「今回はここまで。でも次にやるときはもっと気を付けなければいけないよ」と、細かいご注意を書いた台本をくださいました。宝物です。
立役、女方どちらもに憧れるお役があり、将来はどちらも勤められる俳優になりたいです。やはり旦那がなさっているお役には憧れがあります。特に好きなのは源義経。 『熊谷陣屋』『勧進帳』など、高貴で、雰囲気があってとても素敵です。女方では、魁春旦那や大旦那(六世歌右衛門)がなさったようなお役。まだまだ未熟なのでその時々にいただけるお役を勤め、階段を上っていければと思います。
旦那からは常々「歌舞伎座の舞台にふさわしい、ふわっと大きな存在感のある役者にならなければいけないよ」と、大旦那からの教えを言われています。小さくまとまったり、周りが見えなくならないよう、舞台に立つときは常に心がけており、また、目指すところとなっています。
実は今日のお着物、大旦那のお下がりなんです。あやかれるようにと旦那が仕立て直してくださったんです。
現在高校三年生、学校に通いながら舞台を勤める梅丸さん。「歌舞伎界では、同世代の坊っちゃん方と仲よくさせていただき、新年会や誕生日会にも呼んでいただいて、情報交換や芝居の話に花を咲かせています」とのこと。
学校生活やプライベートのお話をてら子、やー坊が聞いてきました!
「癒されています! 友人が(SNSの)LINEのアイコン写真にしていたのがきっかけで、見てみたらハマってしまいました」
「バリバリの文系で、
数学はちょっと…(笑)」
「クラスでは楽しくワイワイやっています。…モテるかですか? 聞かないでください、皆に何言われるかわからないので(苦笑)」
「特に夏場に出てくる“黒い彼”が…(名前も口に出したくないご様子)。染五郎若旦那もお嫌いなんです」
「入門後も一門の皆さんにご迷惑をかけました…。えっ、今もそうですか、…すみません。あと、電車が好きで(話題を変えました)、家の近くにあった電車の車両基地によく出かけていました」
「もともと姉が好きで、今は壱太郎坊っちゃんに誘っていただき、よく一緒に見に行きます。『新版 天守物語』(平成26年4月フェスティバルホール/オーチャードホール)で(元宝塚歌劇団の)大空祐飛さんと共演できたのはうれしかったです」
「僕は歌舞伎俳優になる!」
歌舞伎が好きで、歌舞伎俳優に本当になりたいと思ったとき、「厳しい世界だ」「大変だ」など、周りからいろいろなことを言われました。
それでも僕は「歌舞伎俳優になる!」と思い込んで疑わず、突き進んだことが、こうして今につながっていると思います。
僕のように歌舞伎が大好きで俳優を目指している皆さん、ぜひ強い熱意をもって一緒に頑張りましょう!
なかむら うめまる
高砂屋。中村梅玉の部屋子。平成8年9月12日生まれ。
17年1月国立劇場『御ひいき勧進帳』富樫の小姓で子役として本名で出演。
18年4月歌舞伎座『沓手鳥孤城落月』(ほととぎすこじょうのらくげつ)小姓神矢新吾、『関八州繋馬』(かんはっしゅうつなぎうま)里の子竹吉で中村梅丸を名のり部屋子披露。