
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
こども歌舞伎スクール寺子屋 特別企画 歌舞伎、たのしい!
市川 福太郎
部屋子として歌舞伎の世界に飛び込んだ若き俳優たちの
インタビューをお届け。
今回は、小学一年生から1年の半分は歌舞伎に出演、
成田屋の部屋子となった市川福太郎さんです。


インタビュー・文/松竹こども歌舞伎スクール「寺子屋」事務局
写真/松竹写真室 プライベート写真/ご本人提供 構成/歌舞伎美人編集部


初めて歌舞伎関係の方にお声をかけていただいたとき、芸能事務所のお仕事はしていましたが、歌舞伎は観たこともありませんでした。小学一年生での歌舞伎初舞台(同年5月新橋演舞場『毛谷村』一味斎孫弥三松)は、お化粧の白粉(おしろい)が冷たかったという記憶くらいで、はっきりとは覚えていないんですが、今思うと楽しんでやっていたのかなと(笑)。ほかのお仕事と違って、お客様の反応をそのまま受け取ることのできる舞台のお仕事に、魅力を感じていたのは間違いありません。
歌舞伎に関係するお稽古は、子役の発声や動きなど、初めのうちは大変でした。頭で考えていると追いつかないので、とにかく繰り返し体で覚える。指導の先生からはお役の気持ちを大切にするようにと教わっていたのですが、なかなかそこまで間に合わずに(汗)。それでもお稽古は楽しくて、学校の勉強より頑張っていました。
小学二年生の頃には「自分は歌舞伎子役なんだ」と意識するようになりました。「これからも歌舞伎を続けたい」思いはあったのですが、いつか子役を卒業したら歌舞伎をできなくなってしまう…。そんなときに、部屋子のお声かけをいただいたことは運がいいというか、本当にありがたいことだなと思います。

部屋子になってすぐ、旦那(市川團十郎)が亡くなって、本当に急で…。最後にご一緒させていただいた『勧進帳』(平成24年10月新橋演舞場)は、楽屋に部屋子になる前の見習いで通い、旦那がお化粧をされるのをじっと見ていました。「大丈夫? 緊張しているかな?」と優しくおっしゃってくださったことをよく覚えています。もっとご一緒したかったです。
浅草公会堂で部屋子披露をしてからは(平成25年1月『勧進帳』太刀持音若)、化粧も衣裳もお芝居の勉強も全部自分。一門の先輩方に何から何まで教わっています。子役のときとは違って「成田屋の市川福太郎」という意識が強くなったと思います。お客様にも成田屋のお芝居として楽しんでもらいたい。自分が何か失敗をしたら一門に迷惑がかかってしまう。まだまだ一番端っこでほんのちょこっとですが、成田屋の一員として恥ずかしくないように頑張っていきたいと思っています。
若旦那(海老蔵)からは、「とにかく挨拶を大切にするように」といつも言われています。やっぱり人とのつながりが大事で、何かあったときに助けていただけるのもよい関係が築けていればこそ。大人、先輩方への尊敬を込めてご挨拶するよう心がけています。

どんなお役も僕自身の良し悪しより、そのお芝居をつくり上げていく一人としてちゃんと勤めなければいけない、という意識で演じています。平成中村座の茶後見(平成24年3月『暫』)は客席が近いので、お客様の「かわいいね」という声が聞こえてきて照れ笑いしてしまいそうになりましたけど、大事なお役ですし、緊張の場面なので、もちろんお役に集中しました。
最近は新作や珍しいお役も多く、お手本のある古典作品の役を演じるのとは違った難しさもありますが、それを機会に、お化粧やお役の知識などを先輩方にたくさん教えていただき、とても勉強になります。

ちゃんとやっていればかわいい、合格、という「子役」の演技ばかりではなくなってきたので、「役者」としてお客様に認めてもらえるように頑張らなければと思っています。これからは立役も女方も、二枚目も三枚目も、善も悪も、いろんな役柄に挑戦してみたいです。
たとえば、今は絶対できないですけど『夏祭浪花鑑』の義平次にも興味があります。演じる俳優さんのカラーが出ていて、自分だとどんなふうにできるかなって考えていると、とても面白いです。そして女方の憧れは『伽羅先代萩』(めいぼくせんだいはぎ)の政岡。女性の鏡というか、女性らしさと強さがあって愛情にあふれていて、本当にかっこいいです!!
まだまだ未熟ですが、どんなお役もチャンスをもらえたら全力で勤める…。ただ待つだけではだめなので、いつでもできるように今はお稽古を一所懸命、頑張っています。
この4月から中学校生活が始まったばかり。「同じ伝統芸能の世界に身を置く友達がたくさんいて、わかりあえる友達がいる…、学校には楽しく通っています」と言う福太郎さん。学校生活やプライベートのお話をてら子、やー坊が聞いてきました!

「外でボールで遊ぶことが多いです。兄弟子の升一さんに教わったこともあります」

「東野圭吾さんが好きで、今読んでいるのは『時生』(講談社文庫)。先が気になります!」


「若旦那の『古典への誘い』公演がきっかけで興味を持ち、先日初めて観に行ったのですが、とても面白くて。また観に行きたいです」

「飛行機の中で見たのですが、とっても面白かったです! 音楽がすごくよくてこれからたくさん聴きたいと思っています」

「体育は好きだし頑張っているんですけど、速く走れません(きっぱり!)」
「得意なことは、…うーん、やっぱりないです…」(謙虚過ぎます、そのはにかんだお答えぶりがお伝えできず残念)

「初めての海外だったのですが、名物のチキンライスがおいしくて3回も食べちゃいました! 公演は、お客様の雰囲気が日本と違い、カーテンコールで“ヒューヒュー”とか、スタンディングオベーションとか、その反応にびっくりしました。お客様が認めてくださったのはありがたかったです」


「歌舞伎の奥深さは地球の裏側まで!」
自分の好奇心さえあれば、どこまでも追及していける深さが歌舞伎にはあります。僕もまだまだ知らないことばかりで、どこまで深められるか楽しみです。その奥深さこそが歌舞伎の魅力だと思います。
一度だけではなく、ぜひ何度も歌舞伎の舞台を観てください。そして、もしも舞台出演のチャンスがやってきたら、もっともっと歌舞伎の面白さを知ることができると思います!

いちかわ ふくたろう
成田屋。十二世市川團十郎の部屋子。平成13年4月25日生まれ。
20年5月新橋演舞場『彦山権現誓助剱』「毛谷村」一味斎孫弥三松で、本名で歌舞伎の初舞台。
25年1月浅草公会堂『勧進帳』太刀持音若で市川福太郎を名のり部屋子披露。