歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



『祇園祭礼信仰記 金閣寺』の雪姫 撮影:松竹株式会社
 
 
『廓文章吉田屋』の夕霧 撮影:松竹株式会社
 
 

女方にとって必要なこと
 〜相手役に“惚れる”気持ちで勤める

 歌舞伎の三姫とされる『本朝廿四孝』の八重垣姫、『鎌倉三代記』の時姫、『金閣寺』の雪姫をはじめとする女方の大役を、持ち前の気品と美し
さで、また、役の性根を深く探求し尽くすことで鮮やかに演じ続けてきた雀右衛門さん。

 「三姫、そして『助六』の揚巻や道成寺物は大好きです。歌舞伎のお姫様は品格、それに色気とかわいらしさが必要とされる、とても難しいお役です。難しいからこそ、克服しなければならないと考えて勤め続けてきました」

 女方に転向して以来、60年以上の歳月が流れました。

 「女方にとって大切なことは、とにかく立役に合わせることです。相手役に気を遣って、好感をもたれるように勤めなければなりません。台詞や動きのタイミングや位置などは、立役を勤める相手の役者さんによって演り方も型もそれぞれ違いますが、私のほうが自然に合わせるようにしております。相談して合わせるようでは情が移りませんから。そして、歌舞伎には型がありますから、型を身につけることは当然ですが、女方のお役はどのような役でも色気がなくてはなりません。私はいつも心から相手に惚れる気持ちで勤めております。息子や弟子たちによく話しているのは“姿は傾城、心は貞女”であるべきということでしょうか。姿は色気を持って可愛らしく、心は誠実にという心構えがとても大切です」

 気品と色気が宿る女方。雀右衛門さんは、先代が完成させた女方の極みを次の時代へと伝えていこうとしています。

 「『吉田屋』で伊左衛門が夕霧を責め立てる場面で、常磐津の“それは浮気な水浅葱〜”というくだりがあるのですが、ここには京屋に伝わるとても色っぽい振りがございます。これは先代の型から復元した振りなんです。実は、唯一、相手役の方にお願いして京屋の型でやらせていただいております」

私と歌舞伎座

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