政岡の打掛の「雪持笹」

『伽羅先代萩』竹の間の場 乳人政岡衣裳
赤綸子着付(あかりんずきつけ)、黒繻子雪持笹繍裲襠(くろじゅすゆきもちざさぬいうちかけ)

『伽羅先代萩』花水橋の場 藩主足利頼兼衣裳
紫綸子竹に雀繍着付(むらさきりんずたけにすずめぬいきつけ)、同羽織。“大名の普段着”という設定です。

 色、文様、デザインは単なる装飾にとどまらず、さまざまなメッセージ性を持っている場合があります。ことに、舞台の衣裳や道具に使われる色や文様は、その背景となる時代や主題、登場人物の性格などをあらわすために重要な役割を担っていることが多いものです。歌舞伎でも、あるときはさりげなく、あるときは大胆につけられた文様が、観客のイメージを膨らませるのに大きな効果を発揮しています。

 ここ(左写真)に掲げたのは『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』で用いられる打掛(うちかけ)です。

 “竹もしくは笹に積もる雪”という図案は「雪持笹(ゆきもちざさ)」という文様です。 植物学的には竹と笹はちがうものになりますが、文様の上では竹も笹も「笹」と呼ばれることがあります。

 数ある“お家狂言”(大名家のお家騒動を題材にした演目)のなかでも一番有名なものが、「伊達騒動」といわれる実際に仙台藩伊達家で起こったお家騒動に取材し、舞台を江戸時代から室町時代に置き換えて作られた『伽羅先代萩』です。 奥州の大名家のお家乗っ取りを企てる、藩主の伯父大江鬼貫(おおえおにつら)と執権職仁木弾正(にっきだんじょう)の一味は、藩主足利頼兼(あしかがよりかね)を陥れて無理やり隠居させてしまいます。頼兼のあとを継いだ幼い藩主鶴千代の乳人政岡が着ているのがこの「雪持笹」の打掛です。

 「伊達騒動」を扱った歌舞伎は、『伽羅先代萩』のほかにも『早苗鳥伊達聞書(ほととぎすだてのききがき)・実録先代萩』『梅照葉錦伊達織(うめもみじにしきのだており)・裏表先代萩』などがありますが、どの作品でも政岡(『実録先代萩』では浅岡)は竹と雪の模様の打掛を着ています。

こころを映す、歌舞伎の舞台

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