松に「雪持」は松王丸の衣裳

『菅原伝授手習鑑・寺子屋』松王丸衣裳(成田屋系)
黒綸子雪持松に鷹繍着付(くろりんずゆきもちまつにたかぬいきつけ)、同羽織

『菅原伝授手習鑑・寺子屋』松王丸衣裳(音羽屋系)
銀鼠綸子雪持松繍着付(ぎんねずりんずゆきもちまつぬいきつけ)、同羽織

 歌舞伎にはもう一人、「雪持」の衣裳を着る人物がいます。『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)・寺子屋』の松王丸です。

 松王丸は、梅王丸、桜丸とともに生まれた、当時珍しい三つ子の一人で、菅丞相(かんしょうじょう)(菅原道真)の恩を受けて育ちます。長じては、藤原時平公(しへいこう)の牛車を先導する牛飼いとなりますが、時平公が菅丞相の政敵であったことから、菅丞相が太宰府に流されることになっても表立っては力になることができません。しかし、菅丞相の若君菅秀才(かんしゅうさい)の命が危ないと知ると、ひそかに自分の愛児小太郎(こたろう)を、菅秀才の身代わりに立てます。時平公にも親兄弟にも菅丞相を裏切った薄情者と思われ、世間にもそしられている自分だからこそできる恩返しと、思い定めての計画でした。

 やはりこの場面の季節は春なのに、松王丸が着ているのは、名前に因んだ松に「雪持」の衣裳。松王丸を演じる俳優によって、左の写真にある成田屋系、音羽屋系とは異なる色やデザイン、生地の衣裳が使用されることもありますが、じっと耐え抜く決意を示す「雪持」の意匠は共通しています。

こころを映す、歌舞伎の舞台

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