タイルの復元を通して感じる 日本の職人のこころ

INAXライブミュージアムの中にある
「世界のタイル博物館」
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 INAXライブミュージアムの「ものづくり工房」では、国内外アーティストや建築家・デザイナーとの交流を通して斬新なものづくりを行う中で、古い建物に使用されていたタイルの復元も行っています。この復元作業は、形状や表情だけを復元するのではなく、当時の歴史的背景や技術を調査しながら、当時の設計者や職人たちの苦労や思いなど、ものに込められた“こころ”を知ることを重要視して作業を行っています。今回は、帝国ホテル旧本館のタイル復元事例について紹介いたします。

帝国ホテル旧本館のタイル
写真1 帝国ホテル東京 ロビーにおける旧本館食堂の柱展示(2011年3月までの予定)
 
写真2 大正時代の帝国ホテル煉瓦製作所でのタイル制作の様子(故・牧口銀司郎氏より谷口正巳先生を介してINAXが譲り受けた写真です)

 2007年4月、INAXライブミュージアムの企画展で「水と風と光のタイル―F.L.ライトがつくった土のデザイン」と題して、大正12年に竣工し昭和42年に解体された帝国ホテル旧本館のタイルを復元し、その空間の一部を再現して展示会を開催しました。

 この展示会では、解体された帝国ホテル旧本館の玄関部分を移築復元した明治村から、保存されていた食堂の柱部分を借用し展示会のシンボルとして展示しました。現在この食堂柱は、帝国ホテル120周年記念として日比谷の帝国ホテルロビーに里帰りしています。(写真1)

 帝国ホテルの旧本館に使用されたタイルを復元することや、当時の文献を調査することで感じたことがあります。それは、日本の職人の「ものづくり力」が世界的建築家フランク・ロイド・ライト(以下ライト)の魂を動かしたという確証にも近い推測です。 帝国ホテル建築中、ライトは日本に滞在し設計をつづけながら現場で指揮をとり、設計変更は日常茶飯事のことだったと記録されています。この設計変更の連続に対応していたのが、日本の職人でした。テラコッタと大谷石で構成される壁面を製作中、大谷石の石工さんたちは現場に常駐し、刻々と変わるライトの要求に次々と対応していったとあります。大正7年から製造を始めたテラコッタの図面にも大正10年のサインが入った図面も存在し、度重なる設計変更に対応する職人たちにライトが触発されながら、設計をつづけていた様子がうかがい知れます。

 ル・コルビジェ、ミース・ファン・デル・ローエと共に20世紀の3大巨匠の一人といわれるライトを触発し、後の落水荘(ピッツバーグ)やグッゲンハイム美術館(ニューヨーク)などの有名建築を生み出す根源に、日本の職人の「ものづくり力」があったとは言い過ぎでしょうか。帝国ホテルのタイル復元を通して、そんなことを考えてしまいました。最後にこの帝国ホテルの煉瓦を制作した工場が常滑にあって、INAXの創業とも深く係わっていたことを付け加えておきます。

文:INAX文化推進部ミュージアム活動推進室 室長 後藤泰男


こころを映す、歌舞伎の舞台

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