季節はずれの雪の柄をまとうのはなぜ?

『伽羅先代萩』足利家竹の間の場 舞台背景(2009年4月 歌舞伎座)

上写真:2点『伽羅先代萩』足利家奥殿の場 舞台背景(2009年4月 歌舞伎座)。足利家(伊達家)の家紋、さらに“竹に雀”がちりばめられている。

これがまさに“雪の重みに耐える笹”「雪持笹」。

 モデルになった伊達家の家紋は「竹に雀」。奥御殿の若君の居室も竹の絵を描いた「竹の間」です。政岡の打掛の竹の柄は、竹に縁のある狂言にふさわしい図柄ではあります。しかし、季節は鶴千代君が雀の子に餌をやる場面があることなどから雪の降る冬とは思えません。昔も今も、女性は勿論、その女性を演じる俳優も、着物の柄には気を使うものですので、なぜそんな季節はずれの雪の柄を着ているのか、一見不思議な気がします。

 実は、この打掛を着た政岡は、鬼貫、仁木一派に若君暗殺計画があることを察知し、若君御病気と言い立てて、我が子千松(せんまつ)とともに奥御殿に籠城(ろうじょう)しています。男子の面会は一切差し止め、食事さえ毒を盛られることをおそれて政岡自ら用意する粗末なもので我慢させているのです。案の定、仁木弾正の妹八汐(やしお)が、鶴千代君を政岡から引き離そうとやってくるのですが、藩の重役を勤める夫の代理として出仕した松島、沖の井両人の助力と、鶴千代君の政岡への厚い信頼の前には八汐も引き下がらざるを得ません。

 しかし、ほっとしたのもつかの間、次の場面では、鬼貫、仁木一派と通じている幕府管領(かんれい)山名宗全(やまなそうぜん)の妻栄御前と八汐が、鶴千代君に毒を仕込んだ菓子を無理やり勧め、千松はそれを止めようと自ら毒入り菓子を食したあげく八汐に惨殺されてしまいます。

 雪の重みに耐えながら、撥ね返す機会を待つ「雪持笹」は、わが子千松を犠牲にしてまでも鶴千代君を守り抜く、政岡の「耐え抜く力と意志」を感じさせる要素となっています。また、その打掛の裏地と着付(着物)はともに真赤。「雪持笹」とともに彼女の内に秘めた熱い思いを具象化しているようです。

こころを映す、歌舞伎の舞台

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