『盛綱陣屋』 和田兵衛秀盛「黒ビロード綿入り半着付、赤織物雲龍柄長裃(くろびろうどわたいちはんぎつけ、あかおりものうんりゅうがらながかみしも)」

 雲の文様は、「高貴な方がおいでになる場所の上には彩雲がたつ」といわれ、おめでたい吉祥文とされています。さまざまな形にデザインされ、いろいろなものと組み合わされて使われてきました。特に雲と龍を組み合わせた「雲龍文(うんりゅうもん)」は、中国においては皇帝の器物や衣類に用いられる格式のある文様です。陶磁器などの図柄にもよく見ることができます。

 歌舞伎では、重厚な織りの雲龍文は『盛綱陣屋』で敵陣に一人乗りこんで来る和田兵衛秀盛(わだびょうえひでもり)や、『妹背山婦女庭訓』三笠山御殿の場の金輪五郎(かなわのごろう)など、時代物の武張った役柄の人物の衣裳に使われます。

 また、武将でこそありませんが 染めの雲と龍を着ているのは忠信利平(ただのぶりへい)。ご存じ『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』の「白浪五人男」のひとりです。「稲瀬川勢揃いの場」で着ているこの衣裳は、その図柄の勇壮さを役柄に重ねたと思われます。

こころを映す、歌舞伎の舞台

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