四代目歌舞伎座が閉場して、ものづくりに携わる者として思うこと

 金糸・銀糸や色とりどりの糸を使い、巧みな刺繍の技法を駆使して描かれた吉祥紋の龍と雲。この衣裳は、いったい誰の衣裳でしょう?

 これは記憶にも新しい、4月の歌舞伎座さよなら公演、そして5月の新橋演舞場の花形歌舞伎でも上演された『助六』意休の衣裳です。意休が鞘から抜いた刀こそ、助六が捜し求めていた友切丸であることが判明するクライマックスで、意休はこの衣裳をまとっています。

 きらびやかな金糸、銀糸で描かれた龍もさることながら、鮮やかな色彩の雲の刺繍が目を引きます。近くで見ると思わずその感触を確かめたくりますが、その技法は尾状繍い(びじょうぬい)といいます。簡単にご説明すると、糸の太さ二本分くらいの平糸を使って芯となる水引などの上から巻きつけるようになるべく詰めて刺します。これを目的の“絵面”になるように数本並べて繍っていき、後から巻きつけた糸の上部を切ります。最後に糸の下にある水引などを引き抜くと、ビロードのような面ができあがる、というものです。勇ましい黄金に輝く龍とは対照的に、フワッと浮かぶ雲の質感を表現するのに、ぴったりの技法ですね。

こころを映す、歌舞伎の舞台

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