『浮世柄比翼稲妻』吉原仲之町の場 不破伴左衛門「紺木綿雲に雷繍着付(こんもめんくもにかみなりぬいきつけ)、羽織」

同、名古屋山三「浅葱繻子濡れ燕繍着付(あさぎしゅすぬれつばめゆいきつけ)、羽織

 

雷文

 
 忠信利平と同じく「白浪五人男」のひとり 南郷力丸(なんごうりきまる)が着ている衣裳は雲と雷の図柄です。この組み合わせはかなりの“破天”、荒々しいイメージになります。
 ちなみに、天空を切り裂く稲妻をデザイン化した雷文(らいもん)は稲妻文ともいわれます。直線が中心へ向かって次々折れ曲がっていく模様は、ラーメン丼の縁にもよくみかけます。

 もうひとり、雲と雷を着ているのは『浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなずま)』の不破伴左衛門(ふわはんざえもん)。恋敵の名古屋山三と廓ですれ違いざま刀の鞘が当たり、あわや血の雨…という「鞘当(さやあて)」の場面です。対する名古屋山三の衣裳は「濡れ燕」。薄い色合いの地色に、ツバメが虫を求めて地面近くを飛行する様子と、春雨のやわらかい雨線をえがいた図柄は、“しっとりと濡れる”という感触さえ感じられ、二枚目で色男の名古屋山三にぴったりです。

 『茨木(いばらき)』では、伯母真柴(ましば)と名乗って渡辺源氏綱(わたなべげんじつな)の屋敷に入り込んだ茨木童子が、綱に切り落とされた自分の片腕を取り返し、本来の鬼の姿となって飛び去ってきますが、その茨木童子の衣裳にも稲妻と風が描かれています。荒っぽく描いた丸で風を表す「風の丸」は、台風のような大風を力強く表しています。

 天候を表すデザインは世界各国にあるものですが、なかでも四季に恵まれた日本はその数が多いように思われます。形を持たない水蒸気まで文様にしてしまう、観察力と表現の細やかさには驚かされます。歌舞伎ではそれらの模様を上手に組み合わせて、役柄に合わせて使っています。

こころを映す、歌舞伎の舞台

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