翁格子と童子格子

『勧進帳』 武蔵坊弁慶「翁格子半着付(おきなごうしはんぎつけ)、白龍文紋輪宝大口(しろりゅうもんりんぽうおおくち)、黒塩瀬梵字散らし水衣(くろしおぜぼんじちらしみずごろも)、紺地織物篠懸(こんじおりものすずかけ)」

 

『菅原伝授手習鑑』「車引」 三つ子(松王丸、梅王丸、桜丸)「紫白童子格子柄厚綿入り東絡げ着付(むらさきしろどうじごうしがらあつわたいりあずまからげきつけ)」

 弁慶格子という名前から、武蔵坊弁慶もこの「弁慶格子」を着ているのかと思いがちです。確かに歌舞伎十八番『勧進帳』で弁慶は水衣(みずごろも)の下に格子の衣裳を着ていますが、よく見ると縦横の黒い太い縞の間に色の違う細い縞が縦横それぞれに3本ずつ入れ込んであり、シンプルな弁慶格子とはちがいます。これは「翁格子」という格子柄です。『翁三番叟(おきなさんばそう)』の衣裳から付いた名前とも、太い筋(翁)が細い筋(孫)を守っている様子に見立てて付いた名前ともいわれています。

 一方、『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』「車引」で、梅王丸、松王丸、桜丸、三つ子の兄弟がおそろいで着ている紫の格子は「童子格子(どうじごうし)」。歌舞伎では、この場面の紫の大きな格子柄を童子格子といっていますが、文様事典などでは縦横の太い縞にそれぞれ細い縞がついている格子柄を童子格子と定義しています。これも大江山の酒呑童子(しゅてんどうじ)の衣裳にちなんで付けられた名前という説がありますが、太い線(親)に細い線(子供)が寄り添うように付いているので童子と呼ばれたのではないかと思われます。

こころを映す、歌舞伎の舞台

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