すっきりシンプル

『義経千本桜』下市村鮓屋の場 いがみの権太「弁慶格子単着付(べんけいごうしひとえきつけ)」。黒と白の弁慶格子の衣裳をまとうのは、いがみの権太の他にも『お染の七役』の土手のお六、『切られお富』のお富など、いずれも強請り、騙りなどをする“悪”の部分も持つ、強い性格の人物。

 縦と横の線が交差することによってできる文様、格子。線の太さや間隔、そして本数などによってさまざまなバリエーションがありますが、歌舞伎によく使われる柄のなかでも、格子はかなりシンプルな文様です。そして、その格子のなかでも、とてもシンプルですっきりとしているのが弁慶格子です。

 左の衣裳は、先のページでもお話しした『義経千本桜』「すしや」のいがみの権太の衣裳。子供服などにもよく使われ、私たちが慣れ親しんできたあのギンガムチェックと同じ柄でありながら、まったく異なる印象です。縦横の線の幅が太い、力強い弁慶格子の歌舞伎衣裳。その役柄や芝居の持ち味などから、華やか、豪華なものを着るわけにはいかないけれども、舞台上でも映えて、なおかつ強い性格を印象付けるために、この、すっきりシンプルでいて、メリハリが効いたデザインは効果的ですね。

こころを映す、歌舞伎の舞台

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