歌舞伎いろは

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一力茶屋の縁の下に隠れて手紙を盗み読んでいるのが斧九太夫。歌川国貞画。早稲田大学演劇博物館蔵。無断転載禁。
(c)The TsubouchiMemorial Museum, WasedaUniversity, All Rights Reserved.

「あらま、こんなところに梅干だわ」と頭を箸でつままれる敵役

 しわしわっとした外見から、梅干は時に「おばあちゃん」(失礼)にたとえられます。ところで、忠臣蔵で知られる大石内蔵助は、どうやら「梅干親爺」だったらしく──。

 江戸時代の文人、大田南畝は、随筆「半日閑話」に、赤穂城受渡に随行して大石に面会した人の話として「一体小作りにして痩せ形の梅干を見るごとくの親父風なる男にて、かかる大望など思慮ある体にはかつて見えぬ人体なりしが…」と記しています。“大望を持つ大物”のイメージが強い大石を「小作りにして痩せ形の梅干」だなんて!と意外に思いますが、「金銀請払帳」なる討ち入りに至るまでの「決算報告書」を残している大石の几帳面さなどと重ねると、「…なるほど」と思えてはきませんか。

 「仮名手本忠臣蔵」七段目祇園一力茶屋の場。仇の目を欺くため、大星由良之助は酒宴に興じています。全編で最も華やかなこの場面、酒席で始まるのが「見立て」遊び。仲居、太鼓持ちに扮した俳優が1人ずつ前に出て、アドリブで何かの形や人物の姿を真似するのです。ここでは役者は芝居の筋を離れ、現代の話題などに触れてもよいのだそう。ただし、最後は必ず仲居が斧九太夫(敵役)の頭を箸でつまんで「梅干なんぞはどうじゃいな」と、これが決まり事。これはもしや大石内蔵助の「梅干親爺」つながり?というわけではなさそうですが──。

 この「見立て」のシーンには、決まったセリフはありません。銘々の俳優が考えて、おもしろおかしく演じるのです。今日はどんな「見立て」が飛び出すか、見る方は楽しみですが、毎日ネタを考える俳優は、なかなか頭が痛いのでは。「う~む」とアイデアをひねっているときの俳優の皆さんは、梅干を食べたときのように酸っぱい顔になっているのかもしれません。

酒宴に興じる大星由良之助。『仮名手本忠臣蔵』七段目 歌川国貞画。
早稲田大学演劇博物館蔵。
無断転載禁。(c)The TsubouchiMemorial Museum, WasedaUniversity, All Rights Reserved.