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【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
昭和を代表する作家の一人、三島由紀夫は、生涯6編の歌舞伎作品を書いたことでも知られています。その中の一編、六代目中村歌右衛門のために書き下ろしたのが『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』。読んで字のごとく鰯売りが登場するこの作品は、三島歌舞伎の中でも特に人気が高く、歌舞伎座さよなら公演「壽初春大歌舞伎」でも上演されました。 舞台は京都。鰯売りの猿源氏は、街で見かけた美しい人が忘れられません。その女は東洞院(ひがしのとういん)の大名しか相手にしない高位の遊女蛍火。そこで一計、猿源氏は大名になりすまし─。まんまと廓に乗り込んで、蛍火の膝枕でうとうととする猿源氏ですが、うっかり寝言で「鰯買うえい!」と鰯の売り声を上げてしまいます。ありゃりゃ正体が露見、と思いきや。 猿源氏の売り声を聞いた蛍火は、実は自分は紀州丹鶴城の姫で、ある日お城の天守で聞いた鰯売りの声が忘れられず、声の主を訪ね城を出たまま帰れなくなり遊女になった、というのです。なんと行動的なお姫様! 高貴な女性と憧れた人が実は遊女で、遊女と思ったら大名のお姫様で、しかもこのお姫様、猿源氏と手に手を取って鰯売りになるという。奇想天外ながら若いふたりの恋が微笑ましいお話が、ほのぼのとした気分に誘います。 ところで鰯売りの売り声は「伊勢の国の阿漕ヶ浦(あこぎがうら)の猿源氏が鰯買うえい」。三島が題材を借りた御伽草子(おとぎぞうし)の一編、『猿源氏草子』でも、猿源氏がやはり同じかけ声を上げています。「買う」は「買はう」がなまったもの。「買はう」は「買え」とちょっと命令している言い方です(「えい」はかけ声)。しかも三重県の東海岸、阿漕ヶ浦はその昔、伊勢大神宮の御膳調進の網を引くところで、一般には禁漁地。そんなところで鰯を商う猿源氏は、けっこう図々しい男なのでは。その上大名に化けるなんていうのも大胆不敵。いや、若さゆえかしらん──。と、そんなことを思いながら観るのも楽しい演目です。
さるげんじ(猿源氏)草子の中の1ページ。橋の上で猿源氏が蛍火を見初めるところが描かれている。 国立国会図書館所蔵。無断転載禁。
曲亭馬琴原作、三島由紀夫が歌舞伎脚本を書いた『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』 豊原国周画(明治30年)。 早稲田大学演劇博物館蔵。無断転載禁。(c)The TsubouchiMemorial Museum, WasedaUniversity, All Rights Reserved.
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