歌舞伎いろは

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芋をそえた「引窓」の供え物。
芋をそえた「引窓」の供え物。中秋の名月は「芋名月」ともよばれ収穫物をそなえる習慣が各地にありました。
 

季節感を伝える、味わい深い「引窓」の月見団子

 熱燗と、景気よくそばをすすって江戸っ子の粋と冬の情景を表した「直侍」とはまったく異なり、「引窓」(本名題『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)』では、月見団子が中秋の候を表し、しっとりとした秋の味わいを静かに感じさせてくれます。

 舞台は江戸から離れ、京の都の近郊、八幡の里。明日は石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう)で放生会(ほうじょうえ)が行われる十五夜の前夜です。ついこの間、2006年9月にも歌舞伎座で上演され、南与兵衛(後に南方十次兵衛)を吉右衛門、濡髪長五郎を富十郎が演じました。その時の筋書には放生会について「殺生を戒めるための仏教の法会の一つで、旧暦八月十五日に生きものを放つ行事。インドから中国を経て日本に伝わったもので、諸国の八幡系の神社で行われてきた」と解説が載っています。親子の情や人の情けの葛藤を描いたこの作品のクライマックスで、題目にもなっている「引窓(縄で引っ張って開閉する天窓)」を開けると、さっと入ってくる中秋の月の光、放生会の持つ意味が活きています。放生会、中秋の候を表す「月見団子」はお芝居の中で、なくてはならない物なのです。

 この放生会のように、仏教や神道などの行事、祭礼の他にも、江戸の武士や庶民達は、桜や菊、萩などを愛でる花見や紅葉狩りなど、季節を感じる行事を娯楽として楽しむようになりました。もちろんこれらの行事には「見る」だけではなくて、酒やご馳走は付き物。季節の山の幸、海の幸が宴席を飾ったことでしょう。また、潮干狩り、栗拾い、松茸狩りなど、自然の恵に触れ、「旬の物」をおいしくいただくという行事も一般的になってきました。