歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

髪結新三の「めっぽう新めい(とても新鮮)」な初鰹

和紙を重ねてつくった小道具の鰹。
和紙を重ねてつくった小道具の鰹。表面に張った銀紙の輝きが、リアルさをかもし出している。
 「旬の物」が出てくる歌舞伎といえば、何といっても「髪結新三」の初鰹でしょう。「髪結新三」の本名題は『梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)』、河竹黙阿弥の作品です。二幕目の始め、同じ長屋に住む権兵衛が新三の弟分の勝奴に向かって「おゝ、大分時鳥(ホトトギス)の声を聞くが、まだ鰹の声を聞かねえようだ」という場面があります。新三の家の盆栽の「青葉」とホトトギス、鰹と、まさにここが「目には青葉 山ホトトギス 初鰹」を表している件です。その時、花道から「かつお!かつお!」と売り声も威勢よく肴売が現れ、さらに朝湯帰りの新三が手拭い・浴衣姿という粋な姿で揚幕から登場します。

 新三は悪巧みが成功し、もうすぐ大金が入ることを見越して、まさに「江戸っ子は宵越しの銭は持たねえ」を地で行く高い値段で初鰹を手に入れます。この時、出入りの肴売の新吉が鮮やかな手捌きで鰹をおろす場面では観客から拍手が起こります。小道具の鰹がよくできていて、えらのあたりに包丁を入れると頭がとれ、胴に刃を入れれば半身に分かれて片方には骨がついているという、凝ったつくり。小道具の仕掛けが生きる場面です。

 勝奴が「此奴ァめっぽう新めえだ」と喜び、肴売がおろした鰹の頭を捨てようとするのを合長屋の権兵衛が遮って頭を貰い「初鰹にありついた」と嬉しそうに舞台から引いていく場面から、江戸の人々が初鰹に寄せる特別な思いが伝わってきます。
幕間の“食”
 江戸時代の歌舞伎は舞台を変更するために幕間が大変長く、その間観客達は酒を飲んだり、弁当やお菓子を食べたりしました。その食べ物は、主に菓子、弁当、寿司の三品だったので、その頭文字をとって「か・べ・す」と呼びました。当時「かべす」を食べるのは、自分で早朝から並んで木戸から入った客達、つまり江戸の庶民で、裕福な上等の客は芝居茶屋を通して芝居見物をしていました。茶屋に高額な料金を支払って良い席を予約しておくので、並ぶ必要もなく、彼ら、上客は幕間が長いときには茶屋に戻って酒食をとったりしたそうです。