第2章.「いま」の筋書、ここに注目! ~筋書を彩る表紙絵・挿絵~
持ち帰れる芸術“表紙絵”
第1章でも紹介しましたが、歌舞伎座の筋書の表紙は日本画や浮世絵などで華やかに彩られ、私たちの目を楽しませてくれます。歌舞伎座の美術に携わった画家や、当時の画壇で活躍した画家の描き下ろし作品が用いられており、筋書の表紙は手に取れる“芸術作品”ともいえるでしょう。また、「團菊祭」や「顔見世興行」をはじめとして、『仮名手本忠臣蔵』など通し狂言の上演時には、季節や演目に合った美人画、役者絵などの浮世絵も表紙を飾りました。
第五期開場以来、歌舞伎座の筋書の表紙絵は、日本画壇で活躍する画家に表紙絵を揮毫いただいています。依頼にあたっては、画家の作風や代表作を参考に、季節に合った花鳥風月などテーマを画家本人と相談しています。また、一枚の絵が表紙から裏表紙までつながるので、製本したときにメインとなるモチーフが表紙に来るよう構図を工夫していただいています。興行名の題字も揮毫いただいた画家にお願いしていますので、題字まで含めて“ひとつの作品”となっています。
絵が完成した際には、作品の受取とともに絵のモチーフや作画技法について、制作過程での工夫などを取材します。この内容は、筋書の「今月の表紙」のページで紹介されていますので、表紙絵と合わせてこちらもご覧ください。
当月令和2(2020)年11月公演の筋書は、「顔見世興行」に合わせ、芝居町の賑わいを描いた浮世絵が表紙を飾っています。
あらすじに情緒が生まれる“挿絵”
筋書をご覧になった方は、ほんわかとした水墨画に「あ.」のサインが入った挿絵を目にしたことがあるのではないでしょうか。この挿絵を毎月描き下ろしていただいているのは、東京藝術大学名誉教授の荒川明照先生です。
荒川先生は、東京藝術大学在学中に第四期歌舞伎座開場間もない頃の劇場ポスターを手がけて以来、筋書の挿絵の他、特別な公演時のチケット袋や松竹歌舞伎会会報誌「ほうおう」の表紙制作等、70年にわたって歌舞伎座に携わっています。歌舞伎座の舞台美術を手がけたこともあり、第四期初期から現在まで歌舞伎座を支えている方のひとりです。
挿絵の制作について、荒川先生は次のように語っています。
「歌舞伎は日本の伝統芸能ですから花鳥風月を意識し、散歩の時などに絵のヒントが浮かぶとスケッチして、ストックを増やしています。(中略)挿絵は筆の墨一色で濃淡で描くものだと決まっていた。これがなかなか難しくて。木村荘八さんや三田康さんの挿絵などを参考にしていたのですが、ある時に鉛筆で描いたものを見ていいなあと思い、それから鉛筆と筆と混用して現在に至ってます」
(平成30年4月歌舞伎座筋書「わたしと歌舞伎座」より)