歌舞伎いろは
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豆や米などの大切な穀物には、もともと霊力があるとされていますから、火で清められた煎り豆は邪気を払うのにうってつけのアイテムです。なおヒイラギはトゲによって、鰯は焼くともうもうと上がる煙によって、邪気を払います。
鬼は邪気や悪のシンボルであり、情け容赦の無い怖い存在ですが、強い力を持ち、勇猛果敢な者という意味もありました。むしろ、鬼が来て邪気を払ってくれるという場合もあります。また、「九鬼」のように鬼のつく名を持つ家では、「鬼は内」と唱える風習があります。

其の一 1年の邪気を払って幸せを願う

 節分といえば現在は2月3日ごろですが、江戸の暦では12月中・下旬にあたります。節分とは文字通り「季節を分ける」という意味。4つの季節の始まりすべて、つまり立春・立夏・立秋・立冬の前日が節分です。なかでも春の訪れとなる立春前の節分は、1年の境目であり、特に邪気が高まりやすく厄払いが必要な時とされたようです。

 節分という厄払い行事の元となったのは、中国から伝えられた「追儺(ついな)」という儀式です。7世紀頃の宮中では大晦日に行われていました。鬼に扮した人を殿上人が矢で射ることによって、悪鬼を払い疫病などを防いだそうです。

 江戸では身分を問わず、節分の日に追儺を行います。町では家の入り口に、塩鰯とヒイラギの葉を刺しました。竈(かまど)で白い大豆を煎り始めるのは日暮れ時です。年男は枡に入った煎り豆を受け取ると「富は内、福は内」と大声で唱えながら、家の中にも雪隠(せっちん)にも豆をまきます。「鬼は外」は言わない家も多く、言うとしたら大戸口でだけでした。部屋にまいた豆を無駄にすることはなく、老若男女でにぎやかに拾い集め、歳の数に1つ加えたものを銭と一緒に包みます。立春の後に最初に雷が鳴った「初雷」の日にこの豆を食べると、その年は病気をせず、健康に過ごせるといわれていました。

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