歌舞伎いろは
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目籠は目の粗いザルのことですから、三角形や星形などの図形がくっきりと見えます。これらが魔よけとして効力があると考えられたようです。
籠やザルを竿につけて掲げる風習は、町人にはポピュラーなものでした。籠目がたくさんあるせいで、目が1つしかない一つ目小僧が逃げ出すともいわれています。

其の二 春空も魔よけで清々しく

 江戸の頃の陰暦2月は、8日に「事八日(ことようか)」を迎えます。これもまた1つの変わり目であり厄払いの時です。12月8日もやはり事八日ですが、これを事始めとする場合と、2月8日を事始めとする場合があります。つまり、正月という特別な時を前に事を始め、2月にそれを納めるというものと、春であり農作業も始まる2月に事を始め、12月までにすべて納めるという2つの考え方があり、江戸では混在していたようです。

 いずれにしても変わり目ですから、妖魔がはびこる危険が高まります。そこで活躍するのが、目籠や味噌漉し(みそこし)でした。目籠は日用品ですが、網目が星印の連なりであることから、いわゆる晴明桔梗(※)と同じく魔よけの効果があるとされたのだそうです。目のたくさんある様子が方相氏(ほうそうし)に似ているから魔よけになるのだという説もあります。方相氏とは古い宮中の追儺式で悪鬼を払う役で、目が4つもある恐ろしげな面を被ります。味噌漉しの場合は編み目が方眼ですが、これもまた道教で「九字を切る」、つまり「臨兵闘者皆陣列在前(りんびょうとうしゃかいじんれつざいぜん)」の9字を唱えながら縦に4本、横に5本の線を書く動作につながるのだそうです。

 2月8日には、町の人々は竿の先に籠を吊るし軒の上に掲げます。こうすることによって悪魔が立ち去り、安全に新しい季節をスタートさせることができたのです。

※晴明桔梗(せいめいききょう):安倍晴明の邸宅跡と言われる清明神社(京都市上京区)の社紋。陰陽五行の象徴である星印(セーマン)で、魔除の呪符でもある。

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