歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


縫う仕事は季節を問わず、たくさんあります。着物は冬物なら梅雨の頃に糸をほどいて洗い張りし、夏のうちに綿入れ、羽織、胴着、襦袢までみな縫い直します。秋には夏物をほどきますし、初冬には来年のための新しい着物の縫い物も始まります。
1年中休む間もなく働いてくれた針の苦労をねぎらうのが針供養です。現在でも、関東では2月8日に行われています。関西などでは12月8日が一般的です。

其の三 年に1度の遊び

 江戸では特別な日にはきちんと家で料理を作ります。2月8日の料理は「お事汁」です。 小豆あるいは大角豆(ささげ)、牛蒡(ごぼう)、芋、人参、焼き豆腐、こんにゃくなどを煮ます。堅い素材からおいおい煮ることから、「甥甥」とかけていとこ煮とも呼びました。

 柔らかく煮込んだお事汁をいただく日は、針供養の日でもあります。江戸の女性たちは、毎日のように裁縫をするのが当たり前でしたが、この日ばかりは針仕事を休みます。そして、折れたり古くなったりして使えなくなった針を集め、豆腐やこんにゃくなどに刺して供養しました。針を柔らかい物に刺すのは、日頃から堅い布を一生懸命縫ってくれた針に対して感謝し、ねぎらうという意味があったのだそうです。

 江戸の人々は、修理もできないほど古くなった道具なら、近所の寺社に頼んで供養してもらっていました。針供養の場合は淡島社にお願いするのが一般的で、江戸では浅草寺の淡島堂が有名です。本社は和歌山県加太にある淡嶋神社とされ、淡島様とも呼ばれました。淡島様は女性にとって、頼りになる味方として親しまれていて、女性たちは家庭円満や婦人病予防を願ったり、裁縫が上達するように、上手に反物を裁つことができるようにと祈ったりしていました。
『お嬢吉三の“厄払い”』
 「月も朧に白魚の」の名台詞で知られるのが、黙阿弥作『三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつかい)』。夜鷹のおとせを川に突き落としたお嬢吉三が「思いがけなく手に入る百両」と言うと、厄払いの「おん厄はらいましょう」という声が入ります。節分の夜は町に厄払いがやってきて、めでたい厄払いの辞を述べてくれるものでしたが、お嬢吉三は自分自身に向けて、厄払いのような台詞を続けるのです。

くらしの今と昔

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