歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



1点1点手刺繍が施される

あらゆる染色技術と刺繍の技を持つ工房

 約300年前、山形の地で染元として創業したという(株)石山染交。現在、工房は都内にあり、50年程前から歌舞伎衣裳の染色、刺繍を手がけている。松竹衣裳㈱、ときには俳優自身からの発注を受けて製作、反物として納めるのだ。

 「歌舞伎以外にも能・狂言、舞踊の衣裳、宮内庁等で使用される装束などありますが、100%受注生産です」と語るのは代表の石山祐司氏。

 25名が働く工房内は、染色部門と刺繍部門に分かれ、染色のフロアでは、引染・煮染・型染・手描き友禅……とさまざまな染色技法が可能だという。一方、刺繍部屋では、歌舞伎衣裳なじみの金糸刺繍が手作業で行われていた(写真上・黄色の襦袢)。

 「今年12月の南座(吉例顔見世興行)で坂田藤十郎丈がお召しになる白拍子花子の黄色い襦袢と薄紫の着物は、うちの仕事です。製作時間はケース・バイ・ケースで、大物を新たに仕上げるとなると1~2ヶ月かかることもありますが、例えば『勧進帳』の富樫の大紋で2~3週間といったところでしょうか」

 デザイナーが立つ新作歌舞伎は別として、通常、歌舞伎衣裳にはデザイン画のような資料はない。それまで舞台で使用していた衣裳そのものを頼りに、柄を合わせ、色を合わせ、新たな生地に再現していく。この卓越した再現力こそが、伝統を守る力といっても過言ではない。

 「生地の色に関していえば、江戸時代と現代ではだいぶ異なると思います。なぜなら照明の色が違うから。でも、客席から見たときの衣裳の色、それが再現できていれば嬉しいですね」

(写真上2点)精緻で立体的な刺繍が見事(中)手描き友禅の作業 (下左)着物を染めるための型が大量に保管されている (下右)染色の作業場。反物の色を落とす作業中。