歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



手がけた衣裳が舞台に上がる喜び

 今年11月の歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」『土蜘』で尾上菊之助丈が纏う侍女胡蝶の衣裳を制作中だったのが、松竹衣裳・縫製課に所属8年目という秋吉和美さん(29歳)。

 「新人の頃は、サイズ直しからのスタートです。徐々に仕立てを担当するようになり、幹部さんの衣裳を手がけるようになったのは5年目を過ぎた頃から。でも、その分、生地が厚かったり、豪奢な刺繍が入っていたりと、なかなか難しいものがあります」

 縫製課に入って、最初に感動したのは、長袴を縫い上げたとき。

 「通常の和裁では、長袴を縫う機会などまずないですよね(笑)。歌舞伎の衣裳ならではの経験ができることが、この仕事の一番の魅力だと思います」

 そんな彼女がもっとも意識するのは、〈衣裳を立体的に見せる〉ということ。

 「生地の汚れや傷みをなるべく見せないように仕立てることも大事なテクニックですが、そこに役者さんの体が入ったときの立体的なバランスが何より重要だと思います。そのためには必ずハンガーにかけ、遠目で立体感を確かめながら調整します。その衣裳で役者さんが舞台に立った瞬間はやっぱり幸せですね(笑)」

取材協力 松竹衣裳(株)、(株)石山染交
取材・文 寺田薫 写真 伊藤康弘 構成 児玉結(編集部)

入社8年目の秋吉和美さん

細かい作業のため照明の強い室内に熱気がこもる