歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



1点1点手刺繍が施される

事前の衣裳選びがメインの仕事

 金糸・銀糸に彩られた華やかな衣裳は、歌舞伎観劇の大きな愉しみ。楽屋内でその大事な着付けを担当するのが、〈衣裳さん〉と呼ばれ親しまれる人々だ。

 「私たちの仕事は〈衣裳を管理する〉こと。実は着付けはメインではなく付属のようなものなんです」と語るのは、松竹衣裳(株)演劇部第一演劇課の松本勇さん。歌舞伎をはじめ商業演劇の衣裳を担当するが、彼らは衣裳会社の『営業』というポジションに位置する。

 「第一の仕事は『見せ衣裳』。自分が担当する役者さんの出し物が決まったら、それに合わせて社内や倉庫に保管してある衣裳の中からセレクトし、役者さんにそれを見せながら打ち合わせをして、衣裳を決定します。

 その後、縫製課に仕立てを依頼。既存の衣裳で思うようなものがない場合や、新作歌舞伎などのときは、あらためて生地から発注することもあります。そこまでを準備するのが私たちのメインの仕事なんです」

 次にあるのが、担当俳優の着付けのサポートだ。本来、歌舞伎俳優は自身で衣裳を着付けるため、紐を渡す、襟や帯をチェックするなど、俳優の背後から補助の役を果たす。その流れを再現するため、今回は特別に『土蜘』の軍兵の着付けをお願いした。

(写真3点)尾上音一郎さんに『土蜘』の軍兵の着付けを再現していただいた。後ろでサポートをする松竹衣裳(株)の松本さん。通常、この役は俳優が自分ひとりで衣裳を着ることになっている。